2013/05/27

私的書評

$私は書きたい

東方書店から4月に出版された「蔣介石研究」をこのところ少しずつ読んでいる。
読めば読むほど、頭が下がるというか、とにかくすごいと感嘆するばかりだ。
日本における蔣介石研究の積み重ねを集約した、文字どおり日本の蔣介石研究の集大成ともいえう作品である。

書いている人たちは、リーダー役の山田辰雄さんをはじめ、家近亮子さん、戸部良一さん、川島真さん、横山宏章さん、松田康博さんなど普段から私も教えを受けている先生方で、中国からも最高権威である楊天石さん、鹿錫俊さん、段瑞聡さん、台湾からは呂芳上さん、友人でもある黄自進さんなどなど、東アジアの第一線の中国近代史の研究者が名を連ねている。

どの論文も読み応えがあるのだが、特に巻頭論文の山田先生の「まえがき」は、単なるまえがきではなく、蔣介石研究の過去と現在、そして未来を包摂した分かりやすい内容になっており、蔣介石に関心がある人ならば絶対に目を通しておくべき内容だろう。

特に「台湾の民主化を含めて蔣介石研を研究することは、将来の中国の政治的変容とも関連してくると考えられる」という指摘はまさにその通りで、国民党と共産党は双子の政党であり、中国の共産党の運命が蔣介石の生涯と決断から見えてくるとことも多いはずである。

蔣介石研究は世界的に一つのブームを迎えており、日本だけでなく、中国、台湾、欧米でも蔣介石に対する従来の見方が一掃され、新しい蔣介石像が形成されようとしている。
2006年に始まった蔣介石日記の公開がひとつのきっかけではあるが、善か悪か、偉大か無能かというステレオタイプに二極化された蔣介石への見方を再定義する姿勢では一致している。

最近も台湾で蔣介石に関するキャラクター展を中正紀念堂が企画したところ、「神格化をともなっている」と野党の民進党などから批判され、中止に追い込まれたように、蔣介石はいまでもコントラバーシャルな指導者であり、その評価が定まったと言うことはできない。

こうした研究の積み重ねによって蔣介石の歴史的評価とその功罪はより正しくクリアに理解されるべきであり、本書は4500円でちょっと高いが、学ぶところは本当に多い。

© 2024 Nojima Tsuyoshi