2013/12/04

私的書評

$私は書きたい

同僚の先輩である吉岡桂子さんの新著「問答有用」をこの先週末に一読した。
内心、吉岡さんには密かな敬意とライバル意識を抱いている。
記事の「量」では誰にも負けないという自負を持ちながら特派員をやっていたが、
吉岡さんにだけは、ときどき「敵わない」と感じてしまうからだ。
それぐらい吉岡さんの記事を出す本数は、とにかく多い。
吉岡さんの「記者として生き残るには書き続けるしかない」というハングリー精神は、
いつも見習いたいと思っていた。

そんな吉岡さんは2010年から今春までの北京での特派員としての取材活動のなかで、
意欲的に諸問題の最先端にいる中国人とのロングインタビューを行い、
朝日新聞のオピニオン面などに長行の大型記事として載せてきた。
日中関係がこういう時代だからこそ、
「中国の声」をできるだけ今の日本に伝えたいという考えもあったのだろう。
書いているときから、きっと本にするんだろうなと予想していた。

経済人からメディア人、活動家など多岐にわたる人々へのインタビューの中身は、
いろいろありすぎて、一言二言で言い尽くせるものではないが、
同業としてはよくもこれだけの人々に会ったものだと感心するしかない。
「中国の体制の中で闘っている」19人との「対話」によって、
総体として「中国の現在地」がクリアに浮かび上がってくるのである。

本書の面白さは、むしろインタビューそのもの以上に、
各インタビューに対して吉岡さんが書き足した「インタビューを終えて」の部分にある。
これは、インタビューした自分と対象をもう一度突き放す作業であり、
吉岡さんの特派員としての経験と知識がちりばめられていて非常に興味深い。

「中国の知識人の特徴の一つは、自らの批判に多くの時間を用いることだ」
「市場=右派という色分けの中で発言を続けることは、戦いそのものだ」
「人民元は、共産党が治めた地で物資を調達するために発行した通貨がもとになっている」
これらはどれも、ちゃんと仕事をしていないと出てこない一文だ。

特派員を3年やったら「卒業論文」を必ず書けと、
これから海外に初めて出ようという30代前半のとき、大先輩から言われたことがあった。
もちろん「卒業論文」とは本のことである。
新聞は読み終わったらある意味で消えてなくなってしまうので、
読者のためにも、自分のためにも、記録を形で残すことが大切なのである。

その意味では、この本は吉岡さんが精魂込めて取材した3年の「卒業論文」であり、
間違いなく読み応えと記録的価値の両方を兼ね備えた良著だと思う。

© 2024 Nojima Tsuyoshi