2014/05/25

台湾映画

先月台湾に数日行ってきたのだが、割と忙しかったスケジュールの合間をぬって観ることができた何本かの映画がどれも「当たり」で、大変豊かな気持ちになれた。
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そのうちの一作は「白米炸弾客」。お米爆弾犯。ライス・ボンバーが英語タイトル。実話にもとづいた社会的リアリズムを追求した長編映画である。
しかし、この種の映画にありがちな冗長なセリフや退屈な描写は一切ない。娯楽映画としてもものすごく完成度が高い作品で、2時間の上映時間があっという間に過ぎていった。
日本に来るかどうか分からないが、絶対に来てほしい作品だ。
国際版予告編
台湾版予告編

主人公の「楊儒門」は、2002年から03年にかけて、台湾の政府がもっと農業を重視することを求め、各地に十七個の白米爆弾を仕掛け、逮捕された。楊儒門は台湾の農村の彰化出身で、監督を務めた卓立も同じ彰化出身だ。
WTO加盟の名の下に無視される農業。まじめに働く人々がただただ苦しむしかない不条理。かわいがっていた子供の死亡。無理矢理買い取られる父親の農地。楊儒門は、爆弾の作り方を独学で学び、「反對進口稻米」(輸入米反対)、「政府要照顧人民」(政府は人民を守るべき)と書いて白米を詰めた手製爆弾をあちこちに置いて、人々の注意を呼びかけた。爆弾で誰かを傷つけることはなかったが、逮捕された楊儒門は懲役5年の判決を受け、2007年に特赦で釈放された。
楊儒門が釈放されたとき、私は台湾に赴任してから一ヶ月に満たず、この問題についての理解があまりにも浅かった。感度が鈍かったため、釈放というチャンスをとらえて記事を書いたり、本人にインタビューしたりすることはなく、その後、何度かメディアで楊儒門のことを目にした記憶はあるが、記事として取り上げたことはなかったが、この映画をみて本気で後悔した。
できるなら、一度、楊儒門にインタビューしてみたい。
主人公を演じた黃健瑋がいい。不条理に苦しみながら、その思いを爆弾でしか表現できない人間の切なさを非常にうまく演じている。それに主人公と同郷で、気持ちを共有しながら近づけるようで近づけない女性・攪和咖を演じる若手演技派の謝欣潁が、とてもいい脇役を演じている。
黃健瑋も謝欣潁も、どちらも年末の金馬奨の有力候補になるだろう。
本作は、限りなくドキュメンタリーに近いフィクションの映画だが、
いま台湾のドキュメンタリー系の作品は本当に元気がいい。
「看見台灣」も本当に見応えがあった。「不老騎士」も笑えて泣けた。
ドキュメンターというと、重くてしんどい印象だが、まったくそうではない。
これからも台湾のドキュメンターからは目が離せない。

© 2024 Nojima Tsuyoshi