「今回の訪米では、私は特別にフライング・タイガース(飛虎隊)のベテランパイロット、ジェームズ・ブラン(音訳)が中国の雲南省で不幸な事故に遭ったときの関係資料を、デンプシー議長にお渡しするために持参した」

 最近、米国を訪問した人民解放軍総参謀長の房峰輝が、15日、米軍のマーチン・デンプシー統合参謀本部議長と会談したあと、記者たちに対してこんな「エピソード」を披露した。南シナ海での中国・ベトナムの対立に関心が集まるなか、日本のメディアで報じられないことは致し方なかったが、忘れてしまうにはもったいない話だった。

 房峰輝は、こうも付け加えた。

「ある一部の国では軍国主義の復活を目指す動きが出ているが、米国と中国は共同で第2次大戦の勝利を守り続けていきたい」

 房峰輝が訪米でフライング・タイガースにフォーカスを当てた動機は、いうまでもなく世界に歴史認識をめぐる「反ファシズムの対日包囲網」を敷き、米国をその仲間に引き込むためだ。

 フライング・タイガースは、1941年から42年まで、ビルマ・タイなどの中国国境から中国国内に送られた米国からの物資支援「援蒋ルート」を守るために活躍した米国人パイロットによる飛行部隊のことだ。

 フライング・タイガースの名称で通っているが、正式名称は「アメリカン・ボランタリー・グループ」(米国人義勇隊)といった。もともと機体にサメの絵を描いていたが、サメを見たことがない中国の民衆が「飛ぶ虎だ」と騒いだので、そのまま「フライング・タイガース」が部隊の愛称になったとも伝えられる。新たにデザインされた虎の絵はディズニーが手がけたともいわれる。

 房峰輝は訪米中、「フライング・タイガース」のメンバーの生き残りや、その子孫たちとも面会し、ゆかりの品々や記念品を寄贈している。

 このフライング・タイガースの話は、今年2月ごろ、ちょっとした伏線が張られていた。中国系メディアが報じていたが、フライング・タイガースの元パイロットたちが中国の崔天凱・駐米大使に対し、安倍晋三首相の靖国参拝を批判する書簡を送っていたのだ。書簡では「安倍氏は第2次大戦中に日本軍からひどい目にあった人々の気持ちを無視し、戦犯が祀られている靖国神社を参拝した。失望を覚える。米国は他の国々と共にこの行動を非難し、警戒を保たなければならない」などと記されていたという。

 この書簡があったから中国側は今回、フライング・タイガース問題をクローズアップしたのか、あるいは逆にもともと狙いをつけていたのか、そのあたりは定かではないが、米国できわめて影響力のある退役軍人の勢力に対し、「米中共同の反ファシズムの歴史を守ろう」という呼びかけが一定の説得力を持っていることは間違いない。

 フライング・タイガースの創設に大きな役割を果たしたのは蒋介石の妻で、「中国空軍の母」とも呼ばれた宋美齢だった。宋美齢はさまざまな国事に口を挟んだが、空軍はとりわけ彼女の聖域だった。日中戦争のなかで、日本軍に比べて空軍力が圧倒的に弱い中国の弱点を補うため、米国軍人のパイロットでシェンノートという人物に協力を依頼し、米国内でパイロットを公募しておよそ90人のパイロットからなるチームを結成した。

 名目上は「中華民国」の部隊だったが、実質的には機体を含めて米国からの援助だった。実質的な部隊の活躍期間は1年に満たなかったが、シェンノートのアイデアで対ゼロ戦に特化した作戦を編み出して日本軍に多くの被害を与えたとされ、印象深い名前とともにその存在は歴史に刻まれている。

 それにしてもどんな逸話でも利用しようというその芸の細かさには敬意を表したくなる。しかも、フライング・タイガースは中華人民共和国の歴史ではなく、敵対する「中華民国」の歴史であり、台湾が本家であるはず。過去、中国共産党はフライング・タイガースの功績を否定していた時期もあったと、台湾紙は報じていた。ここにきてざっくりと「米中共同の歴史」と言い切ってしまうふてぶてしさも「敵ながらあっぱれ」と言うべきだろうか。

*国際情報サイト「フォーサイト」に執筆したものです。

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