台湾の文化部が海外に文化交流や対外発信のために東京・虎ノ門に設置する「文化センター」の名称が、このほど「台湾文化センター」になることが確定したようだ。同センターのHPなどを見ると、すべて「台湾文化センター」になっているので、本決まりということだろう。
 これまでは組織だけが準備のために先行して発足していた「台北文化センター」は、「台湾文化センター」に改名して、6月12日に正式にオープンすることになっている。

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 文化センターが「台湾」になるか「台北」になるかは、実は、けっこうやっかいな問題であった。というのも、上部機関という位置づけになる台湾の大使館に相当する「台北駐日経済文化代表処」が「台北」となっているのに、その下が「台湾」になっていいのかという問題があったからだ。
 外交関係のない日本において大使館相当の組織を置く際に、「台北」を頭につける名称を使ってきたことは外交的な取り決めのなかで世界共通のような形で実施されているものだが、文化センターについては、こうしなければならないという明確な方針があるわけではない。
 いま台湾の文化センターはニューヨークとパリにもあるが、ニューヨークは「台北文化センター」で、パリは「台湾文化センター」となっている。それぞれの名称決定のプロセスははっきり分からないが、少なくとも日本においては、「台北」にするか「台湾」にするかで、関係者による一定の調整があった末に「台湾」に落ち着いたことは間違いない。だからこと、センター開幕のおよそ一ヶ月を切ったところでの名称変更というところまで引き延ばされたのだろう。

 論理的にも実務的にも、台湾の文化を発信するのだから「台湾文化センター」がいいに決まっている。その方が利用する方も分かりやすい。台南の文化を台北文化センターで発信するというのは変である。しかし、そもそも中華民国あるいは台湾などの「大」の存在を「台北」という「小」の名称で語っているところに台湾の政府機関の名称問題の難しさがあることは言うまでもない。
 まず「台北」の名称を使ってきたのに、ここで「台湾」という名称を使うことに対して、日本の外交当局がどう判断するかという問題があったはずだ。これは、日本側の対台湾窓口である交流協会が、台湾側に対し、水面下で「日本政府として問題なし」という判断を伝えていると推察される。
 一方、台湾の政府にしてみれば、本質的には「台湾」が好ましいことは分かるが、中華民国的価値観からすれば「台湾」をあまりに強調されすぎるのはどうか、という考え方も、もしかすると一部にあったかも知れない。かといって「台北」を強硬に主張するのも変ではある。そのなかで最終的に文化センターの名称に「台湾」を選んだのは、極めて合理的な判断であったと言えるだろう。

 個人的なことを言わせてもらうと、今年1月に出版した拙著「認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾」のなかでは「台湾文化センター」と書いてしまっていた。これは半ば思い込みでそうなるに違いないという判断があったからなのだが、その後なかなか「台湾」に変わらないので焦っていたが、幸い今回の決定によってこの記述が「誤記」となることを免れることとなったのは何よりである。

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