2017/02/14

台湾映画

 台湾映画のヒットメーカーで「海角七号」「セッデック・バレ」「KANO」などを手がけた魏徳聖(ウェイ・ダーシェン)が初めて撮ったミュージカル映画である「52Hz, I love you」を、台北の映画館で見た。
 「52Hz, I love you」のタイトルの意味は、52Hzがクジラ同士がコミュニケーションする周波数で、人と人との間の言葉にできない「I love you」をこの映画で描き出そう、ということだと理解した(外れていたらすいません)。
 魏徳聖の映画で「日本」が出てこないのは、メジャーデビューしてから初めてで、路線としてもいままでは「歴史」が絡んでいたが、一切歴史は出てこない。いろんな意味で興味津々な感じで、映画館のシートに腰を下ろした。

 内容は、いろんな人々が、バレンタインデーの日に幸福になる、というお話だ。(ちなみに今日はバレンタインデーだった)その中には、花束を売る人々、チョコレートを売る人々、長年付き合ってきてマンネリ化したカップル、同性愛の女子たちなどがいる。映画の最初から、そのための伏線をずーっと引いていて、ラストに一気に盛り上げるという映画になった。
 すごいと思ったのは、いまこの世界を生きている人間たちの気持ちを、けっこうストレートに処理して、それでいて登場人物たちに嫌味をもたせていないことだ。その点では「海角七号」で見せつけた「みんながしあわせになる物語」の作り方を、この監督はきっとよくわかっているのだと納得した。
 ただ、その展開は、最初の10分でなんとなくわかってしまった。伏線を引いていくテンポがけっこうのろくて、最初の1時間は少し退屈だった。しかし、残りの1時間は魔法をかけたような怒涛の盛り上がり。映像にも歌にも会話にもターボがかかる。このあたりは、海角七号のラスト30分を思い起こさせる技量であり、見終わって損をしたような気持ちにはならなかった。
 満足できなかったところもある。登場人物たちの人生がいま一つ、しっくりくるところまでは描き出されていないので、感情移入がたくさんはできなかった。すべてこの映画のために作られたといういろんな歌の内容も、よく言えばわかりやすく、悪くいえば深みのないもので、ムード音楽をずっと聞かされている感じだ。
 その意味では、主役の一人として起用した原住民歌手のスミン、米菲などの歌い手の力量をどこまで引き出したのかという点では、課題が残った。彼らの演技は本業ではないのだが、とても良かっただけに、なおさらもったいなかった。物語を成立させにくいミュージカルはやっぱり難しい。ミュージカルだからこそ物語性が必要になるのだが、この物語は登場人物が多すぎるせいか、歌にそれぞれの人生を込めるところまでは届いていなかったのではないだろうか。このあたりの歌詞の部分はもう一度よく見てみないと十分に理解できないかもしれないので、DVDになったらまた見て確かめてみたいと思う。
 海角七号にノックアウトされた世代としては、映画のところどころに、海角の主役たちが出てきて、セリフなんかもいじってくれるので、思わず笑いがこみ上げてくる。范逸臣も田中千絵も水蛙も民雄も馬如龍も、みんな歳食ったなと感じるけれど、出てくると、存在感あると思ってしまうのは、海角がどれだけ伝説的な映画だったのか、ということだろう。
 この映画、噂では、魏徳聖が次の「歴史大作」のための資金を稼ごうとして撮ることにした「ヒット狙い」の映画だったとも言われる。「セデック・バレ」も「KANO」もお金を使いすぎたからだ。事前予約だけで2000万台湾ドルに上ったというからきっと「海角効果」もあったのだろうが、その後の評判の広がりはどうなのだろうか。私が観たときは映画館が人が集まる西門町や信義ではなかったからかもしれないけれど、客の入りはそこまでは良くなかった。
 みる価値は十分にある。だが期待はそこそこに。

★★★☆(星3・5/星5つで満点)

「52Hz, I love you」予告編

© 2017 Nojima Tsuyoshi