2017/05/05

書評

 ジャーナリスト・高口康太さんの新著「現代中国経営者列伝」(星海社新書)をご恵贈いただいた。早速手にとって開いてみたが、アリババの馬雲、小米の雷軍、王達集団の王健林など、現代中国を代表する8人の起業家たちを取り上げている。まさに「列伝」の本である。中国の経営者に対する日本の情報はどうしても断片的になりがちで、偏った話(あの人は解放軍系だとかいった類)が強調されてしまうが、この20年は日本にとっては失われた20年だったが、中国では黄金の20年だったわけで、そのなかで世界的な企業を一手に育てあげた経営者が何人も登場した。それらをきっちり俯瞰させてくれる本である。
 本書で「まえがき」に中国に特異な出版文化として「励志書籍」のことを、高口さんは触れている。これは要するに成功者の体験談やそれを取り上げた本で、サクセスストーリーを書いているのだけど、確かに、中国の本屋に行くたびに、そうした本の多さにびっくりしていた。これはきっと中国系の人たちの傾向として、他人の成功を素直に賞賛することにためらわない→他人の成功を真似して自分も成功したい、あるいはうまく繋がって仲良くなっておこぼれがほしい、などなどの功利的な判断があることもあるのだろう。
 良し悪しあるのだろうけど、爽快な成功話を書かせたら、中国は列伝の伝統があるだけに、なかなか面白くかけてしまうのは確かなことだ。日本人はあまりこの種の本は総じていえば好まない。なんとなく、やっかむ人も多いだろうし、本人も自分の成功話なんか本にしても格好よくないように思えてしまうところもある。その意味で中国は成功者をとりあえず押し上げる社会だし、日本は成功者を引き摺り下ろす力学が働きやすい社会なんだろうな、中国はだから権力や富が集中しやすいのかな、などと考えた。

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