2017/05/11

執筆・出版

 最近、台湾で出版された「台湾とは何か」の台湾版「台湾十年大変局」について、ネットで作者本人としてはとても感動させられる評論を書いていただいているのを見つけました。(ふだんはこんなことをしないのでご容赦を)メモがわりに大事なところを自分で訳して載せてしまいます。この文章の先に、本に対する論評が始まるのだけど、この前置きのところが特に嬉しい内容でした。

「引き出しの中の原稿」

 台湾で、どのような学者に、まず「故宮」や「清明上河図」を研究し、続いて「蒋介石」「ジャイアント」を研究する能力(あるいは度胸)があるだろうか。ありえないことである。
 専門の精密な分業が進んだ今日、このような行為は、彼が学閥に属していたら、すぐに学界から放逐されてしまうだろう。(中略)この種の知識社会グループのなかでは、アカデミズムの体制外の人だけが、このような「自由」をもって古今東西自由きままに彼が本当に興味を持ったテーマを追いかけることができる。
 優秀な記者は、引き出しのなかでいつでも出せる原稿を用意しておくものだと聞いた。当時はこの言葉の意味がわからなかったが、次第に悟ったのは、記者は社会の最前線に身を置いており、人々の想像もつかない事象に触れる機会があるということだ。
 しかし、政治的なイデオロギーか、あるいはたんに編集長の好みかで、普段は多くの「ヒント」があっても十分に掘り起こして報道することはできない。そこで、社会に対して好奇心でいっぱいの記者としては、引き出しのなかにいくつも原稿の草稿があり、タイミングをみていつでも書き直して記事にする。それは彼らがニュースの仕事の隙間で見つけたものを、苦労して救い出した結晶である。
 野嶋剛は、メディアの仕事のなかで、朝日新聞の台北支局長などを務めながら、ためこんだ「引き出しのなかの原稿」を、できるだけ本という形にして出版し、日本社会の台湾理解に役立てるだけでなく、台湾社会に新しい観察の視点を提供している。

評論へのリンクはこちら。(中国語)

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