2017/04/19

台湾 執筆・出版

 国際情報サイト「フォーサイト」に、毒性学の専門家でサリン事件の解決に貢献したアンソニー・トゥ(杜祖健)コロラド州立大学名誉教授に、オウム真理教元幹部の中川死刑囚と彼との対話や彼自身の考察による金正男VXガス暗殺事件の真相につい聞きました。明日20日も東京拘置所の中川死刑囚に面会するそうです。杜祖健は86歳ですがとても元気で、親日家である彼が蓄積した知見は日本にも役立つところ多々あると思います。無料公開しており、ご一読いただければ幸いです。
 記事の本筋からは外れますが、杜祖健氏は、台湾本土医療界の父と呼ばれ、日本時代に初めて医学博士を取得した杜聡明氏の息子です。アヘンの専門家であった杜聡明氏は、1913年、コレラ菌を手に、日本から北京に趣き、袁世凱暗殺を企てます。このとき、杜聡明氏と一緒に行動したのがジュディ・オングの祖父である翁俊明氏で、杜聡明氏とは同級生でした。翁俊明氏は終戦直前に暗殺と思われる怪死を遂げましたが、もし亡くなっていなかったら陳儀ではなく彼が戦後台湾の初代トップになっていたとも言われています。
 戦前は強い愛国意識を持っていた杜聡明氏ですが、国民党の腐敗には強く失望しながら、医療界での貢献に一生を捧げました。高雄医学院を設立して先住民医師育成クラスを立ち上げ、霧社事件を起こした頭目モーナ・ルダオの孫を医療従事者として育てたりもしていました。毒ガスが使用された霧社事件のことを思えば、これもまた一つの奇縁かもしれません。
 このように、杜祖健もまた、一族の歴史に台湾史のエッセンスが詰まった人です。

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