2012/01/03

食とエンタメ

 台湾映画がいま凄く面白いです。ここ3~4年、台湾映画では良質の映画が毎年何本も送り出され、「悲情城市」に代表される1990年代前半以来の黄金期を迎えようとしています。しかし、残念なことに、日本では韓流映画に押され、あまりマーケットで正当な評価を受けていません。また、台湾映画に対する評論も十分に提供されていない現状があります。

 私は映画評論を専門とはしていませんが、中華圏の映画は月に2~3本のペースで見てきています。今年は私が気に入った最近の台湾映画(時々その他の映画も)について、このブログで時々できるだけ詳しく紹介していき、何とか台湾映画の魅力が日本にもっと伝わるように微力ながら努力していきたいと思います。

$私は書きたい

 最初の映画は「那些年、我們一起追的女孩」です。昨年の東京映画祭でも上映され、邦題は「あの頃、君を追いかけた」になっていて、同映画祭では観客賞を受賞しました。台湾の九把刀という人気作家の自伝的小説を九把刀自身が監督としてメガホンを取ったもので、まさに九把刀による九把刀のための映画という色彩の濃い映画です。

 それでいながら、一切の押し付けがましさがなく、非常に良質の青春ドラマとなっているのは、九把刀自身が自分の体験を第三者の目からきちんと消化して、誰にとっても理解できる「共同記憶」の映画として仕上げているからでしょう。

 主役は、新進俳優の柯震東と陳研希。台湾中西部の彰化県の高校を舞台に、男5人が1人の女性を追いかけるストーリーです。陳研希が扮する女子高校生に、柯震東ら男子高校生が好意を寄せ、なんとか自分のものにしようと高校だけでなく大学を卒業してからもあの手この手で追いかけます。

 柯震東は、ほとんど陳研希の気持ちを掴みかけているのですが、若さゆえの自信のなさと焦りからもう一歩のところで逃してしまいます。陳研希も、好きなのは柯震東だと自分でも分かっているのですが、いろいろな巡り合わせで、二人は最後はうまくいかなくなり、陳研希はほかの男性と結婚してしまいます。

 素晴らしいのは、映画の中で1980~90年の台湾社会の雰囲気が見事に再現されているところです。日本よりもちょっと純粋で生真面目な時代でした。大学や高校での男女交際は、せいぜいが手をつなぐぐらい。キスまで行けば超進歩派とされました。私も1990年代前半の大学生のころ、台湾の王さんという花蓮出身の女性と恋愛をした時期があったのですが、日本の大学生のノリで迫って拒まれた苦い経験を持っています。

 しかし、恋愛はプラトニックだから燃える(萌える?)というのも事実です。そんな時代だから味わえた異性への欲望とは言えないぎりぎりの純真が、切なく見る者の胸にじんじんと響いてくるのは、九把刀がその時代への憧憬をいまでも必死に抱え込んでいるからでしょう。

制作費は4000万台湾ドル(約1億1千万円)で、4億台湾ドルを超える興行収入を挙げました。何より、映画作品のクオリティという意味において、良質の作品が目白押しだった昨年の台湾でもダントツにナンバーワンの出来だったと思います。しかし、昨年11月末にあった台湾映画のアカデミー賞「金馬奨」の授賞式では、最優秀作品は大作ですが映画としては今ひとつの「賽德克.巴萊」にさらわれ、有力な部門でほとんど選ばれることはなく、大変がっかりしました。その時は知人のツテで授賞式に呼ばれていて、間近でみていて「え、どうしてなの」と言いたくなりましたし、九把刀も会場での表情はいささか呆然としていたようでした。

 しかし、ちょうどこの年末、香港での興行成績が、華語映画としては過去最高の観客動員を記録した、というニュースが入ってきました。さすが香港の映画ファンは目が肥えているということでしょうか。1月からは中国大陸でも上映が始まります。中国での反響の具合も楽しみです。

 
 http://www.appleofmyeye.com.tw/(那些年、我們一起追的女孩の公式サイト)
 

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