2012/02/26
週末の渋谷、道玄坂、ラブホに入っていく人たちをちらちらみながら、
足を踏み入れたのは映画館。中国映画の新鋭、ワン・ビン監督の「無言歌」を見るためだった。
この映画、本当に見たくって、しかも映画館で見たくて、再上映を待っていた。
結論から言うと、本当に見てよかった、しかも映画館で。
とにかく空の青さ、大地の茶色がコントラストになって、その設定そのものに圧倒されてしまう。
主人公の顔や名前は正直最後まで全然頭に入ってこなかったが、
そんなのはかなりどうでもいいように作られた映画で、
人間の尊厳とは何かを考えてくれ!というワン・ビンの叫びが全編を貫く作品だった。
舞台は1960年代の中国。悪名高い「百家争鳴」運動によって、毛沢東に騙されて政府や党に対して少しでも批判的な言動を取った人間たちは、「右派」というレッテルを貼られて各地の労働改造収容所に送られた。この映画では、その労働改造の現場でも最も過酷なところの一つであった甘粛省のゴビ砂漠の収容所の実態について、当時ここに送られてきた人々の証言をもとに克明に描き出したものだ。
人肉食いなど当たり前。雑草やネズミや虫を食べてでも生き残ろうとする人々。
自分がそこに置かれたら、果たしてどんな行動に出るのかなと考えざるを得ない。
裏切りも起きる。他人の不幸を喜ぶようにもなる。
映画が終わったとき、けっこう人は入っていたのだけど、誰も口を利きたくないような雰囲気が漂った。
ワンビンがこの作品について、「過酷な運命を歩んだ人々の尊厳を取り戻すために撮った」と語っていたが、まさに人間が尊厳を失う環境に置かれたとき、どのような存在でたりえるのか、我々は考えざるを得ない。それにしても、この作品が中国で放映禁止になっているのは大変惜しい。いまの中国にとっては、決して受け入れられない映画ではないと思う。
反右派闘争の愚かさを正面から受け止め、謝罪する度量が現在の共産党には求められている。