2012/08/31

台湾

先日このブログでも書いた台湾の「名嘴」体験談を、
台湾の財訊という雑誌でコラムにして発表しました。

http://mag.chinatimes.com/mag-cnt.aspx?artid=15603

ウエブ系のニュースで雑誌の宣伝として流れて、
昨日からヤフーや中国時報、聯合報のニュースサイトでかなり読まれたようです。
友人から「同情するよ」とか「勉強が足りない」などのメールを受け取りました。
私としてはこれは「名嘴」に対するささやかな「反撃」ですが、
きっとそれほど気にもされず、逆に喜ばれてしまうかも知れませんね。
長いですが、日本語の原文もつけておきます。

「被名嘴消費的日本人~在台灣打書的三天經驗」 野島剛

 深夜に突然、背後で自分の名前が呼ばれて恐怖を感じない人はいないだろう。
8月6日、中国広播電台で、ある「名嘴」先生の番組に出演した。収録前、スタジオで彼と挨拶を交わし、雑談していると、当時もっともホットだった台湾海軍艦艇が日本の近海に接近した件に話題が及んだ。「名嘴」先生に「日本はどう受け止めているの」と聞かれ、「この件は日本ではほとんど報道されておらず、日本政府も一切声明を出していない。日本人は誰も知らない。台湾でこれほど騒ぐのは正直、やや意外です」と簡単に答えた。
それからすぐに収録になり、この「名嘴」先生もかなり故宮問題には詳しい人だったので、対話はなかなか盛り上がった。
 その日の夜、ホテルに戻ってテレビを適当につけ、パソコンを開いてメールに返事を書いていると、後ろで「野島剛」という私の名前を誰かが呼んだ気がした。振り返ると、テレビではいつもの政治討論番組を放送しているだけ。気のせいに違いないと思って再びパソコンに向かうと、また「野島剛が・・・」という声が聞こえた。
改めてテレビの画面をよく見ると、昼間の番組で出会った「名嘴」先生がいる。例の海軍問題について、「朝日新聞政治部副主任の野嶋剛が私に語ったところによると・・・・・」と語っているではないか。
まさかあの雑談がコメントとなって社会に伝えられるなど、想像もしていなかった。しかも私は「政治部副主任」ではなく「国際編集部副主任」。「名嘴」先生はその後も私の名前を何回も引用し続け、背中に冷たい汗がじわっと流れた。
 翌日、ある新聞のコラムニストの友人にこの件を伝えると、「你被名嘴消費了」と爆笑された。「彼らと話すときは気をつけないといけないのは常識だ。名嘴は台湾で生まれた怪獣。お前は台湾に3年もいたのに、まだまだ学習が足りない」ということだ。
 私は台湾の聯経出版から「両個故宮的離合」という本を7月下旬に台湾で出版した。その宣伝のため、8月6日から8日まで台湾に招かれた。これはそのときの体験だ。
 台湾のテレビ文化にショックを受けた経験はまだある。
 中国電視の「新聞愛逗陣」という討論番組に出演することになった。有り難いことにテーマは私の本ということで、私は存分に自分の思いを語ることができる、はずだった。番組には、私以外に男女二人のコメンテーターがいた。どちらも歴史の専門家だという。温厚で優しそうな方々だったので、すっかり安心して収録を迎えた。
 ところが、この二人は番組開始と同時に人格が一変したようになり、猛烈な勢いで話し始め、私は完全に出番を奪われてしまった。通常、日本ではこの種の討論番組では、一人で話しすぎると視聴者から嫌われ、次の出番がなくなる。司会者の質問には、だいたい2分以内に的確かつ面白く答えなければならない。
「新聞愛逗陣」はCM含め合計40分の番組で、4段階に分けて7~8分の長さで収録を進めていった。二人は司会者からの質問に答えるだけではなく、質問と関係のないことを延々と話し続けた。しかも、司会の女性アナウンサーも一切、二人の長い話を打ち切ろうとしない。私も同じように「時間の争奪戦」に参加すればいいと言われればそれまでだが、語学力の問題もあるし、普通、外国人はそこまで図々しくなれない。
結局、私の発言は5分に満たず、司会や二人のコメンテーターも早々にスタジオから去った。一人呆然と取り残された私は、随行していた出版社の男性に「これでは何のためにテレビ局に来たのか分からない」と愚痴るしかなかった。そう、ここでも私は「名嘴」にまんまと「消費」されたのである。
 私の専門は外交や国際関係。朝日新聞に入って20年になる。うち8年ほど海外に派遣され、台湾では2007年から2010年まで台北特派員を務めた。
その間、総統選や両岸関係などの取材にあたりつつ、故宮問題についてこつこつとインタビューと資料を集めた。その内容をもとに「故宮の運命から読み解く両岸関係と台湾政治」をテーマに執筆したのが本書である。2011年に日本で出版されて幸いに好評を博して何度か再版を重ね、今回、台湾での出版が実現した形だ。。
いずれにせよ、今回、私を取材してくれたメディアは「中国時報」「聯合報」「旺報」「NEWS98」「中国広播電台」「中国電視」「新頭殻」「全球中央」など10を超えた。外国人の著作に対し、これほど関心を持ってもらうことは台湾社会の豊かな開放性を証明するものだ。加えて、いままで自分から他人を取材するばかりだった私にとっては、他人にこのように取材されることはなかった。そして何より、台湾の「名嘴文化」の一端を身を以て体験できたことは、私にとっては何よりも得難い貴重な体験となった。

© 2021 Nojima Tsuyoshi