2012/10/12
日中関係は靖国神社参拝問題で小泉首相時代に「政冷経熱」と呼ばれた。民主党政権になって中国経済が次第に冷え込んできたこと、日本企業の対中進出が必ずしも順調でないことなどもあり、日中関係で「熱」かったはずの経済分野にも暗雲が立ちこめてきていたが、今回の反日デモによる日系のデパートや工場に対する群衆の野放図な破壊、焼き打ち、略奪によって、日中はすっかり「政冷経冷」のモードに入ってしまったようだ。
そんなことを考えていたら、日中関係悪化の影が私自身のところにもだんだんと忍び寄ってきていることを実感させられる出来事が相次いでいる。
10月下旬に予定されていた中国でのセミナーに講師として招かれていたのだが、主催者側から「都合により延期させて欲しい」との連絡があった。テーマは日中関係ではなく、台湾問題だったが、私を含めて複数の日本人が参加する予定だったので、そのへんが響いたのだろう。
会社関係でも、シンポジウムの共催を予定していた中国のある雑誌から「今回のイベントではご協力をお願いすることを控えたい」との連絡があった。
そして、拙著の翻訳本を中国で年末には出版する運びになっていたのだが、これも延期しそうな情勢だという情報が入ってきている。
当然、私だけではなく、多くの民間人が同じような事態に遭遇しているだろう。谷村新司さんをはじめ、日本人による中国でのコンサートや文化・芸能活動も突然の中止が相次いでいる。
こうなると、事態はもう「政冷経熱」から「政冷経冷」を通り越して、「政冷経冷文冷」にまで至っていると言えるのだろう。政治でも経済でもない文化の領域は最後の砦のようなものであるはずだけに、事態の深刻さを示しているし、後遺症は長く続くかも知れない。
(フォーサイトのコラムから転載)