2013/03/07

台湾

台湾の馬英九総統が先週、尖閣諸島問題において「中国と協力しない3つの理由」を明らかにした。面白かったので分析を試みたい。馬英九は台湾人の中国ビジネスマン「台商」たちの前でこんな風に話したという。

1、中国共産党は日華平和条約を否定している。

2、馬政権が提案した東シナ海平和イニシアチブを中国共産党は一切無視している。

3、中国共産党が、台湾が日本と主権問題や漁業問題を議論することに反対している。

1については、やや分かりづらかったのか、台湾内でもいろいろな形で議論されてしまい、外交部のスポークスマンが「補充」の説明を行なっている。それによれば、日清戦争の末に結ばれた下関条約は尖閣諸島を含めた台湾を日本に割譲したもので、ポツダム宣言とカイロ宣言で日本は占領した中国の領土を中華民国政府に返さなくてはならない。これが台湾(中華民国)が尖閣諸島の領有権を主張する根拠であり、中国共産党が日華平和条約を否定している以上、協力できないという論理だ。

中華民国の立場に立てば、それはそういうことなのかも知れない。ただ、日華平和条約がすでに日中国交正常化に伴う日本側の終了宣言によって実効性を失っており、中国側にこれを求めるのはどだい無理な話である。

2や3についても、台湾が中国の主権にかかわる議論を第三国と行なうことを中国は絶対に受け入れない、という伝統的に明確な立場があるのだから、中国は変えようがない。その意味では、馬英九の今回の発言は台湾として中国に対し、最終的な意思表明をしたものと受け止めてもいいだろう。

ただ、中国側とて、こうした台湾の立場は織り込み済みのところがあって、とりたてて目くじらを立てて馬英九に反論するつもりはないと思われる。そんなことをして、せっかく温まった中台関係を壊してしまってはもったいない。この問題で中国が容認できない最終ラインは、尖閣諸島の主権問題で台湾が日本に領有権を主張しない事態であり、領有権の主張さえ貫いてくれればいい、という構えだ。

米国のこの問題への対応と比較してみると興味深い。米国は台湾に対して、尖閣諸島問題に具体的な実力行使を伴った行動を取ることを基本的に望んでいない。ランディ・シュライバーという、ブッシュ(子)政権でアーミテージの下でアジア外交を担当し、台湾問題を取り仕切った人物が最近、尖閣諸島問題について、米国が台湾に何を望んでいるのか、見解を示した。シュライバーは共和党系の人間なので、現オバマ政権の見方をダイレクトに伝えるものではないだろうが、ワシントンの共通認識をある程度は反映しているものと見てもいいだろう。

1、中国と共同歩調を取らない。

2、日本と良好な関係を維持する。

3、不確実で混乱している状況に台湾が加わらない。

特に強調したのは3で、日中が緊張・対峙する中で、台湾まで絡んでくると、混乱にさらに輪を掛けた混乱になり、東アジアの安全保障が一気に溶解しかねない危険な事態になるという懸念が米政府では強いのだろう。日中という大国同士でとりあえずゲームをやって欲しい、という思いなのだろう。

安全保障の支えである米国の意向に対して台湾が背くことは不可能で、中国と共同歩調を取ることはあり得ない。同時に、台湾の人々が圧倒的に親近感を持っている日本とも良好な関係を維持したい。そして、経済的に依存が深まる中国とも上手くやっていきたい。とすれば、選択肢は必然的に1つしかない。主権問題で表面的には頑張っておきながら、実態としては日中の衝突寸前にみえる事態から一歩引いておくことが台湾の選ぶ道である――。馬英九の話からは、そこまで読み解く方がいいのではないだろうか。

*国際情報サイト「フォーサイト」に寄稿したものです。
野嶋剛「専門家の部屋」こちらをクリック

© 2021 Nojima Tsuyoshi