2013/06/29
中国でプーアル茶バブル再来か
今年、中国でプーアル茶の値段が高騰しており、2007年に起きたプーアル茶バブルの「再来」かと関心を集めている。しかし、そもそもなぜプーアル茶の価格が高騰するのか、日本人にはわかりにくい。背景には、保存期間が長いプーアル茶の特性と、中国のホットマネーに投機先として狙われている事情があるようだ。
いまや中国ではすっかり高級ブランド化し、贈答品などに使われることも多いプーアル茶だが、10年ほど前までは単なる二級、三級のお茶扱いだった。もともと高級茶ではなく、低中級茶の位置づけで、香港や広東など「飲茶」(ヤムチャ)習慣のある地域で愛飲されてきたが、上海以北ではほとんど買うことすらできなかった。
漢字では普洱茶と書く。産地は雲南省。「黒茶」と呼ばれる茶種で、形状は茶葉を圧縮した固形のものが多い。円盤のような形状で茶店に売られているのを見かけたこともあるかも知れない。雲南で採れたお茶を遠い消費地に送るために考え出された独特の製法だ。
長期間の保存がきき、時間が経つほど味が良くなるとされる。30年ものや50年ものなどのプレミアムを生み出すことから、2000年以降に突然、投資家のターゲットとなった。2007年には50年もので100グラムあたり数百万円という常識ではあり得ない価格で取引され、プーアル茶バブルと呼ばれた。
このあたり、バブルの原型とも言われる17世紀のオランダのチューリップ相場の高騰を思い起こさせる。球根1個で家が買えたとされる。経済学の教科書でも紹介される、本来の価値を大幅に上回る価格がつくバブル現象の象徴とされている。
しかし、プーアル茶はしょせんはお茶。市場が冷めるのも速く、2008年には価格が10分の1から100分の1にまで下落。その後、しばらく高騰の話は出ていなかった。
ところが、今年に入って再び価格上昇の兆しを見せており、高級品で1斤(500グラム)4000人民元だった昨年の価格から、今年は1斤が8000人民元と2倍になっているという。
2007年との最大の違いは、中国国内でプーアル茶の知名度が完全に定着したという点だろう。現在、中国では健康ブームで、プーアル茶が「痩身茶(やせ茶)」として広く知られるようになった。北京、上海の高級レストランでプーアル茶をそろえていない店は少なく、外食産業の強い需要があるのは確かだ。
加えて、業界からは、現在、中国では最近の株安、土地安で行き場をなくした流動資金が投資先を捜してさまよっており、再び、プーアル茶に狙いを定めたとの観測も流れている。
いずれにせよ、迷惑を被るのは消費者だ。以前は気軽に飲めた3年もの、5年ものでも買う気にならない値段になった。雲南省の茶業組合なども「投機的な売買を控えて欲しい」と呼びかけているが、生産者の間では2007年の再来への期待感が広がっており、茶畑のある山村で家の新築や新車の購入のラッシュが起きているという現地からの報道もある。
(野嶋剛)
*国際情報サイト「フォーサイト」 に掲載しました。