2013/07/05

中国

指導者の名前を間違えるとクビが飛ぶ中国メディア

 中国のメディアで働く人間にとって最も恐い失敗は指導者の名前を間違えることである。

  我々が日本の新聞で安倍晋三を安部晋三と書いたり、菅直人を管直人と書いたりしても、「不注意でした」として訂正を出すぐらいでせいぜい口頭注意や始末書で済む。しかし、中国ではそうはいかない。「政治的な過ち」と認定され、当事者の首が飛ぶ事態になるからだ。

 そのことは中国のメディア人はすべて骨身に染みるほど理解しているはずだが、やってはならないミスでも、それをやってしまうのが人間である。

 報道によれば、中国の海西晨報が6月26日の朝刊で「習近平」を「習進平」と書き間違えてしまった。新聞はすべて回収処分となり、担当の編集者2人が停職処分を受けたという。

 胡錦濤のような難しい字ならば間違えることはほぼないが、習近平は書きやすい名前ゆえに同音異義語が多く、変換ミスで誤字が生まれやすい。特に「近」と「進」は「jin4」という、発音も声調もまったく同じ字で、名前として「近平」も「進平」もメジャーであるので、もともと大きな落とし穴と見られてきたが、海西晨報はあっさりと穴に落ちてしまった形だ。

  過去にも指導者がらみの「誤字」問題では、例えば1990年代に江西省の「九江日報」という新聞が国家主席だった江沢民の沢を「怪」と書いて処分を受けた。1999年12月には「安徽日報」が「国家主席」から国を抜いて「家主席」としてしまい、20万部の新聞は回収・廃棄され、編集長や担当編集はすべて左遷された、とされている。

 また、名前ではないが、2001年の9.11テロのとき「北京晨報」は、世界貿易センターが燃え上がる1面の記事の隣に、江沢民が運動大会で聖火を点火する写真を配してしまった。これは政治的な過ちとして批判され、新聞社のトップが総入れ替えになったと言われる。

 中国のメディアが指導者がらみのミスで処罰を受けるのは、メディアが党と政府の指導の下にあって人事権なども握られており、読者や取材先との関係を基準にミスの重大性を判断する我々とは異なる価値基準を持っているからである。

 日常の取材活動や報道においては、大衆が興味を持つ話を伝えて読者を増やしていくという意味で何ら中国と外国では異なることはないが、指導者の名前の書き間違いが笑い話で終わらないところに、こうした中国メディアの特殊性が体現されることになる。

*国際情報サイト「フォーサイト」に掲載しました。

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