2013/08/14

中国

この夏、中国の雲南省や四川省を旅していたのだが、世界遺産に指定された有名な大仏がある四川省楽山市の下町で足裏マッサージを受けていたときのこと。マッサージ師の40歳ぐらいのおばさんが急にぶつぶつ言い始めた。

「日本人ってのは本当にひどい連中で、釣魚島(尖閣諸島)を買っちまうし、靖国神社に安倍が行って戦犯のことを拝みに行くっていうし、いったいどうなってるんだろうね」

 ああ、またかと思って黙って聞いていると、

「こないだ日本人がお店に来たから、思いっきり手を抜いてやったんだよ」

「お金もちょっとばかり多めに請求してやったんだ」

 などと言う。それにしては、けっこう一生懸命、力を込めて私の足をもんでくれている。

 そして、こう言った。

「あんたは台湾か香港から来たんだろう? 言葉を聞けば分かるんだよ。台湾は馬英九になってよくなったね。もとから台湾は中国なんだから、一緒に仲良くするのが一番だよ」

 台湾や香港で生活した時間が長い私の中国語はどこに行っても南方なまりだと言われる。そして、中国では台湾人や香港人と勘違いされることも、ままある。たいていすぐに日本人だと訂正するのだが、このときばかりはさすがに「いや、日本人です」とは言い出せなかった。せっかくのマッサージで手を抜かれてはたまらない。

「中国が好き」1ケタ台は日本だけ

 1年ぶりに中国に行ったのだが、対日感情の悪化を実感する体験はほかにもいくつもあった。中国人のあけすけな日本批判は慣れっこだが、だいたい最後は「それでも友好が大事だよね」という形で話をまとめようとするのに、今回は基本的に批判に始まり批判に終わる、という印象だった。

 帰国すると、「言論NPO」と中国日報社による日中共同世論調査の結果が公表されていた。日本人で中国に良い印象を持っている人は9.6%、中国人で日本に良い印象を持っている人は5.2%という結果だった(「どちらかといえば良い印象」も含む)。

 問題は、この好感度の低さが、どの程度、世界的にみてレアな状況かということであろう。通常は日本人のほかの国々への好感度と比較されることは多いが、世界の対中好感度と日本のそれを比較する機会がない。中国の「南風窓」というニュース週刊誌で、世界中の人々の対中好感度について書いている記事があった。それを見ると、いかに日本の対中感情(恐らく中国の対日感情も)が異常な領域に入り込んでいるのかがよく分かる。

「中国が好き」と感じている人は、アジアでは日本が5%、韓国が46%、フィリピンが48%、マレーシアが81%、インドネシアが70%。欧米では、米国は37%、カナダが43%、英国が48%、フランスが42%、ドイツが28%、イタリアが28%、スペインが48%。中東・アフリカではエジプトが45%、ヨルダンが40%、トルコが27%、チュニジアが63%、ケニアが78%、南アフリカが48%というふうになっている。

 それぞれ高い低いはあるが、1ケタ台は日本以外に1つもなかった。

 戦前にこんな世論調査があったのかどうか知らないが、ここまで日中の相互感情が悪化したことは1945年以来1度もなかったことであるのは間違いない。ほとんど「開戦前夜」のレベルではないかと思う。こうなると「世論がもたない」と言ってそれぞれの政権が何かにつけて強硬措置を採ることが政策決定過程で正当化されるようになり、さらに関係が悪化していくという悪循環が加速する。

 どちらが良い悪いではなく、この相互感情の悪化が異常な事態であると認識し、このままでいいのかどうか、そろそろ本気で考えない方がおかしい話である。

*国際情報サイト フォーサイト に執筆したものです。

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