2013/10/25

台湾映画

$私は書きたい

「阿嬤的夢中情人」。直訳すれば「おばあちゃんの夢の中の恋人」となる。
台湾で活動する北村豊雄監督にとって「愛你一萬年」に続く二作目長編作品だ(本作は台湾人監督と共同監督)。
この映画は、台湾の台湾語映画の黄金時代を舞台にした作品である。

台湾語映画の黄金時代と呼ばれた時期は、
だいたい1950年代半ばから1960年代半ばまでの時期である。
この頃は、国民党政権が大陸から逃げてきて公用語として国語(北京語)が使われたものの、
日本語教育の影響が残っていて、台湾語と日本語しか話せない人も多かった。
そんな人々に熱狂的に歓迎されたのが台湾語映画だった。
1960年代後半になると、政府の「講国語運動(国語を話そう運動)」もあって、
国語映画に台湾語映画は取って代わられ、急速に制作本数を減少させていく。
ただ、戦後の台湾で映画産業がほぼ崩壊してしまっていたなかで、
映画産業の復興という意味で、台湾語映画の果たした意味は大きかった。

この作品を見ていると、当時の台湾語映画の状況がよく分かって実にありがたい。
例えば、大陸からきた外省人の俳優は演技は上手いが台湾語は話せなかった。
そのため、セリフはすべて口ぱくで、台湾語は吹き込みで対応した。
そんな台湾語映画の時代背景が随所にちりばめられている。

ストーリーは、比較的複雑で、現代と、台湾語映画の時代が同時並行に進行する。
主人公は、台湾語映画時代の監督・脚本家をつとめる劉奇生と、
若手女優で未来のスターを目指す蒋美月。
美月は、外省人で眷村の育ちで、台湾語はあまり上手く話せないで苦労するが、
奇生の支えで、次第にスターの座を確立していく。
そんな二人は、後に結婚して老人になっている現代社会では、
美月は痴ほうのため、奇生のことも、二人で撮った映画のことも忘れてしまっている。
奇生はどのように過去の二人の思い出をたどり、
美月の記憶を呼び覚ますのかが、この映画のクライマックスだ。

作品としては、かなりいい出来の映画だった。
北村監督の関西人テイストも、不思議に台湾的なべたべたの映画の雰囲気とマッチしている。
現代と1960年代という二つの時代にまたがるストーリーの重ねかたも巧みだった。
特に泣かされたのがラストで、涙を拭きながら映画を見終わることができた。

ただ、少々残念だったのは、そのキャストではないだろうか。
美月を演じた新進女優の安心亜は、もともとはC乳を売りとする台湾の巨乳タレントで、
搖搖とか豆花妹とか、その系列のタレントたちの真似をすることで人気を稼ぎ、
いつの間にか、本家たちも抜去りつつある勢いのある人で、
主役級としては本作で初めて抜擢されたが、
あまりにも台湾人っぽすぎて、全然外省人の女性に見えない。
もっと問題だったのが、奇生を演じた藍正龍である。
脚本家として10年以上のキャリアを持っている設定なのだが、
どうみても20代前半にしか見えないし、何より台湾人インテリの雰囲気がなさすぎる。
これは藍正龍のせいというよりも、キャストがうまくなかったというべきだろう。
藍正龍が外省人の役、安心亜が台湾人の役だったら、ぴったりだったのにと思う。

それでも作品としては、十二分に合格点を与えられるできで、
台湾でのチケット売り上げが3000万台湾ドルを突破したのもうなずける映画だ。
早く日本にきて上映して欲しい。

© 2021 Nojima Tsuyoshi