2013/11/05
兵庫の芦屋からほど近い山の手に、黒川古文化研究所という渋い研究所兼美術館がある。
関西で証券業などで財を成した黒川家が、京大教授で中国文化の大家であった内藤湖南などのアドバイスをもとに収集した2万点の文物をもとに設立されたところで、
一年のうち春と秋の二回、企画展を行っている。
研究員が三人という小所帯ということもあって大型の展示会などできないものの、
毎回、工夫をこらした野心的な展示をしている。
今年の秋展示のタイトルは「鏡に込められたおもい—日本人の信仰と吉祥」。
黒川コレクションにはたくさん日本と中国の銅鏡があり、
その両者を比較することによって、鏡に込められた日本人の美意識を確認しようという狙いだ。
いまは芸術の秋で、どの施設も特別展をやっている。
この週末、関西の展示のそのいくつかを回ったなかで、出色だったのがこの展示だ。
そもそも鏡というのは、中国から日本に伝来し、日本人の宗教や生活で大切にされた。
そのうち日本人も自分で鏡をつくれるようになり、和鏡が独自に発展を遂げるようになった。
鏡というと、もちろん表の磨かれた方が主役であるべきなのだが、
その考古学的な価値は裏面の装飾や文様にあることは言うまでもない。
和鏡と中国の鏡の大きな違いは、ざっと見たところではその鏡の厚みだ。
中国の鏡は分厚い。だから裏面の装飾も突起が高く、動物などの形をつくりやすい。
和鏡は、薄さにその美意識があるようで、一貫した特徴となっている。
文様にも大きな違いがある。
鏡といえば、古墳からの出土品という印象が強いが、実際には日本の和鏡のピークは室町時代に訪れた。室町時代になると、菊や蝶々、鶴などがいかにも日本風という絵柄で描かれている。
日本の文化は基本的に中国伝来のものを日本流に作り替えていく歴史を重ねてきた。
なかなか時系列でその動きを追うことは難しいのだが、
この展示で日本における渡来文化受容の変遷と結果が一目で分かるようになっており、
大変いい知的刺激を受けることができた。
展示は再来週の週末までやっていて、来週には講演会もあるようだ。
黒川古文化研究所
〒662-0081西宮市苦楽園三番町14-50
0798-71-1205