サッカー岡田監督「中国での失敗」の理由は?

 サッカー元日本代表監督で、中国のプロサッカーリーグ「杭州緑城」の監督を務めていた岡田武史氏が、今季限りで辞任することを表明した。16チーム中、1年目は11位、2年目は12位という、まったく冴えない成績に終わった理由について、中国側の問題が大きかったとして、岡田氏に対しては基本的に同情論に傾いた分析がなされていることに、少々違和感がある。

 中国のメディアや中国版ツイッター「微博」などで岡田氏のサッカーに対する真摯な態度を評価する声が多く上がっているのは事実である。しかし、それはあくまでも中国サッカー界の現状に対する不満の裏返しに過ぎない。岡田氏の杭州緑城でのゲーム采配やチーム運営を正確にウオッチしてなされたものではない。

 中国のサッカー人気は日本におけるプロ野球人気を超えるものがある。その期待の大きさに全く応えられない代表チーム、相次ぐ八百長事件に揺れるプロサッカーリーグ、人気に甘えて努力しない選手たちなど、問題はあまりにも山積しており、サッカー好きと言われる習近平国家主席が就任してハッパをかけた後も中国サッカーは低迷から抜け切れていないため、中国人はどんな問題に引っ掛けてでも、中国サッカーの悪口を言ってみたい気分なのである。

 手前味噌の話になるが、岡田氏が杭州緑城の監督に就任した2年前、私は、岡田氏の決断が最後は失敗に終わる可能性が高いと指摘した。岡田氏のような「集団」と「統制」を重視する手法の指導者が、抑えきれない「個」の集合体である中国人社会に適合することは難しいと思えたからだ。

 岡田氏辞任のニュースが流れたあと、杭州のメディアで働く知り合いに調べてもらったところ、岡田監督は在任した2年間、才能を認めた若手をできるだけ抜擢しようと試みて、試合に出られなくなった実績のあるベテランたちの反感を買い、そのベテランの不満に同調して親会社の杭州緑城も岡田監督のチーム運営や起用に介入したため、チーム内には軋轢が絶えなかったという。特に2年目になるとチームは完全にバラバラな状態で、岡田監督は四面楚歌のなかで中国を去ることになったのだという。

 もしも岡田監督に中国共産党のような有無を言わせない強制力を伴う権力があったならば別だが、選手が監督への不満を公言したり、チームの運営に親会社が口を出したりすることが半ば当たり前だと考えられている中国サッカー界で、岡田監督が選手や親会社と衝突することは必然だった。また、親会社の杭州緑城は近年の不動産ブームで成り上がった地元資本の不動産会社であり、たんまりキャッシュは持っていても、そもそもサッカーへの理念を岡田監督と共有できたうえでの招聘だったかどうかには疑問が残る。

 岡田監督が強い熱意をもって中国サッカー界に欠けている要素を導入しようとしたことは、疑いようはない。しかし、つまるところサッカーの外国人指導者は結果を残すための仕事であり、その国のサッカー界の体質改善などは長期的に関われる中国人指導者のやる仕事である。

 かつて日本代表監督を務めたジーコが日本選手に自由にやらせてワールドカップで失敗したことがあったが、それでも日本人はジーコを「偉かった」と褒めただろうか。その意味で言えば、岡田監督の中国でのチャレンジが失敗に終わったことは疑いなく、日本のメディアは同情論ばかりでなく、岡田監督の「失敗の原因」について、もう少し掘り下げて欲しいと思える。

*国際情報サイト「フォーサイト」で執筆したものです。

© 2021 Nojima Tsuyoshi