2016/04/29
台湾の著名な文学者であり、歴史研究者である陳芳明氏が来日し、虎ノ門の台湾文化センターでメディア・出版向けに講演したのを聞きにいった。通訳はおなじみの聞文堂の天野健太郎氏。密度の濃い話にお世辞抜きに勉強させられたし、いろいろ質問もさせてもらって、繰り返しになるが、勉強になった。
わたしの質問のなかで「龍応台についてどう思うか」と聞いたとき、ちょっと苦笑いを浮かべながらすこし考えて、「彼女はいい文章を書く。読者が何を欲しているか分かっている」ということを言った。日本語に訳すとネガティブなものには見えないが、中国語では「她文筆很好,知道讀者需要什麼」と言ったニュアンスは、決して肯定的なものではないと言える。それは、国民党の台湾統治を「後植民地時代」と位置づける陳芳明にとって、自らも外省人である龍応台が国民党も大陸での敗北者として台湾という土地に抱かれた、という認識とは、いささかのズレがあるから、という風に考えることもできるかもしれない。詳しく本人には確かめていないけれど。
多くの収穫のあった講演だったが、私にとっては、1970年代、米国に留学した陳芳明の人生が、米国でのベトナム反戦運動を目撃したことをきっかけに、大きな変転を遂げるところが面白かった。陳芳明はこう語った。
「米国の言論の自由に衝撃を受け、
ワシントン大学の博士課程にいた陳芳明は、その後、台湾で起きた美麗島事件に衝撃を受け、「美麗島」という雑誌を許信良と一緒に立ち上げる。それが政治運動への参加の始まりであり、その後、陳芳明は台湾の歴史や文学の論客としてブラックリストに載せられながら、言論活動を展開していく。
またほかに興味を引かれたのは、日本統治時代から台湾共産党の設立にかかわった謝雪紅について語ったところだった。
陳芳明はこう話した。
「台湾共産党の歴史を学ぶほど、
共産党交流史の知識がないので、軽々に評論はできないが、陳芳明のこの言葉はちゃんと覚えておきたい。