2017/09/07

書評

 産経新聞の山本秀也さんから新著「習近平と永楽帝 中華帝国皇帝の野望」(新潮選書)をご恵贈いただいた。山本さんはシンガポール、香港、台北、北京、ワシントンと、羨ましいほどの海外特派員の経験を積まれ、いつも深い洞察がこもった読み応えのある記事を書いている。
 まだ序章に目を通しただけだが、表題の通り、習近平と明代の皇帝・永楽帝の共通性に着目し、時空を超えたリーダー論を展開する内容。思いもつかなかった視点で、中国史に詳しい山本さんならではの本のようだ。習近平と永楽帝の2人の共通点として①権門の出身②苛烈な政敵排除や国内統制 ③対外拡張志向などを挙げている。「習近平と永楽帝?時代も違うし、比較なんて意味がない」という風に、社会科学的な中国分析だけを頭に入れていると思ってしまうかもしれない。しかし、昨今の中国の動きをみていると、山本さんが本書で書いているように「コンテンポラリーな中国を観察する上で、歴史や文化という視点を縦横に重ね合わせるシノロジー(シナ学)の伝統を忘れるべきではない」ことは、だんだんと否定できない状況になっている。
 現代中国政治が、「先祖返り」の要素を多々孕んだように見える習近平政権の登場によって「進歩」という概念だけでは読み解けない事態に直面しているなかで、シノロジーを組み込んだ現代中国政治分析を試みている本書のスタイルは、非常に興味深い。これから読むのが楽しみな一冊だ。

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