2012/02/20
「復活した台湾映画」のシリーズ(といってもまだこれで四回目)で、初めて、日本でこれから公開されるという作品を取り上げます。
監督はドキュメンタリー出身の王育麟。音楽は、台湾きっての音楽プロデューサー、杜篤之。「父後七日」は父の初七日という意味で、母の初七日だと「母後七日」です。3月から銀座シネパトス、東京都写真美術館ホールなどで上映されますが、その邦題も「父の初七日」。一昨年台湾で上映され、評判が良かったので真っ先に映画館に見に行きました。とっても切なくなる映画です。
人の老いと死はいつか訪れる。しかし、それをどうやって迎えるかについては、どんな方程式もない。その時が来てみないときっと自分がどうなってしまうのか、誰も分からないということを考えさせられました。
映画の舞台は、台湾中の彰化県です。最近、彰化県が舞台の映画が目立つ気がする。前に取り上げた「那些年、我們一起追過的女孩」もそうでした。
彰化は本当に何にもないところで、行ったことがある日本人は絶対に多くない。観光どころか、台湾に住んでいる日本人でも彰化に行く用などほとんどないでしょう。私も4年間台湾に住んでいて、2~3度ぐらいしか行かなかったと思います。しかし、彰化は海岸線がけっこう長くて、美味しいカキが食べられる港がいくつかありました。平べったい平野に、泥っぽい海。なんというか、台湾人の故郷のようなところだと言えるかも知れません。
ともかく、映画では父の訃報に子供たちや従兄弟が集まって伝統的な葬儀を行うのですが、台湾では日本より厳密に七日目に野辺送りを行わなくてはなりません。その間、いろいろなことが起きて、その家族の心の動きを描いていくというストーリーです。
冒頭、父の遺体を前に葬儀の祈祷師から「生前父が好きだったものを置いてあげなさい」と言われ、息子が持ってきて手に持たせたのは台湾でよく売れているセクシー雑誌。これは、日本では単なるジョークだが、台湾では実際にきっとみんなそうしているだろうから、もっとリアルに可笑しい。
台湾の葬式は、泣き女もいるし、死者を楽しく送るためにセクシーな格好で踊る女性も登場します。非現実的だと日本人は感じるほどですが、登場人物たちはこうした台湾風の葬式に普通に戸惑ったり、困ったりしながら、だんだんと父の死という現実を受け入れていきます。その過程が妙にリアルで、見終わったあとに「いや、なかなか良い映画だったよ」って一緒に見た人と言い合える映画です。
映画は笑いが満載ですが、最後は泣かせて終わります。
最後の最後に、空港でかいだ煙草のにおいで、長女が吹っ切れたように思いっきり泣いてしまうところ。この監督はとっても上手だと感心しました。