2012/12/17

台湾

 本日発売されるAERA12月23日号に、台湾の企業「ホンハイ」のトップ、郭台銘会長「テリー・ゴウ」について、「現代の肖像」という欄を書きました。取材は3カ月。中国の郭会長の父親の古里である山西省や台湾などを訪問しました。6000文字の(自称)力作です。
 郭会長という人物を理解するのは容易な作業ではありませんでした。
 まず、長時間かけてホンハイ側にインタビューを要請していましたが、結果としてOKはもらえませんでした。理由はシャープとの業務提携交渉が暗礁に乗り上げているためです。そのため、私が選んだ手法は、徹底して彼の人生をたどってみるという、人物記事では基本中の基本といえるものです。
 彼が生まれた台北の板橋を訪ね、彼の一家が寺院の土地を間借りしていたことが分かりました。学校を訪ねると、通知簿を思わぬ形で見せてもらうことができました。山西では、彼が莫大な資金を投じて工場を建て、父の古里の村のインフラを整備し、9年生のエリート学校を造っていたことが分かりました。
 一つ分かったことは、人物ジャーナリズムにおいて、当人に会うことは絶対必要条件ではないということです。朝日新聞で長く務めていると、何か書くためには先ず本人に会わないということで、すぐに電話してアポを取って、補強する材料を集め、てきぱきと記事書いて、仕事が終わってしまいます。
 しかし、今回の記事は計6000字を超える大きな作品です。そんな小手先の作業では到底やり遂げられません。そんな緊張感のなかで、徹底して資料を集めて読み込み、読み込んだあとにいったん資料を忘れて自分で足で確かめながら取材をして最初は自分の感覚に基づいて書いた文章に対し、改めて資料を開いて補強していきました。
今回の記事が読み物として成功しているかどうかは読者の皆さんに委ねるしかありませんが、書き手としては、所与の条件のなかでやるだけはやったという実感は持つことができました。それは、本人に会わないことで、逆に人物の核心をえぐり出す作業を徹底してやれたということがあったからかも知れません。
 内容について一言だけ触れておきますと、売上高10兆円、従業員120万人という企業ホンハイはIT時代が生み出した帝国であり、皇帝として君臨する郭台銘はIT時代が生み出した怪物である、ということです。そして、郭台銘は帝国を築くことに成功しましたが、その郭台銘自身も帝国の行く末は分からない、という内容になりました。ぜひご一読いただけると嬉しいです。

© 2024 Nojima Tsuyoshi