2013/03/17

台湾

$私は書きたい

今回はこのコーナーで始めてのドキュメンタリー映画である。
実は台湾はドキュメンタリーのいいものが多くて、
この作品を制作した公共テレビは特に優れたドキュメンタリーを数多く送り出している。

監督はディーン・ジョンソン、フランク・スミスという英国人の二人。
この作品、2012年の米国「ジョージ・フォスター・ピーボディ賞」など、とてもたくさんの賞を受賞している。海外で評価が高いのは、やはり、一つの先住民族の文化や生活が、どのように現代社会のなかで生き残っていくのか、生き残っていけるのか、という世界的に普遍のテーマに向き合っているからだろう。

司馬庫斯は、新竹県の東部、台湾山脈の奥ふかくにある。タイヤル族の村で、人口はわずか100人ぐらい。その人たちが、コミューンのように、共同で働き、収入を分け合い、日々の暮らしでも助け合って暮らしている台湾でも珍しいところである。

作品はとても静かに進む。部族のトップである「頭目」の病、村人の出産、観光誘致をめぐる村人の間のトラブルなどのエピソードを巧みに織り交ぜながら、どうやって仲間の輪を守り、伝統を次の世代に受け継いでいくのかを村人が常に自分に問いかけている。
随所に織り交ぜられる自然の美しさが目を奪う。
しかし何より、共同体生活を現代社会においてここまで徹底して送っている人々がいることに驚かされる。
普通、ドキュメンタリーは長い作品には退屈してしまいがちだが、上映時間の90分があっという間に過ぎていった感じだ。

先週、この映画の上映会が、東京の外国人特派員協会であって、そこで映画の内容についてコメンテーターをやらせてもらった。なぜかというと、2009年に司馬庫斯に行ったことがあるから。会場の皆さんに聞いてみたが、台湾人の人たちを含めて誰も行ったことがなかった。大きくない台湾で、たぶん、司馬庫斯はいちばん行きにくい場所の一つなのだろう。

なにしろ台北から新竹まで1時間ほどかけて移動したあと、そこから東に向かって山道を3時間以上、のろのろ走らなくてはならない。悪路のうえに、くねくね曲がる道で、車酔いする人には勧められない。さらに、見どころの「神木」までは村から徒歩3時間半もかかる。一泊でも足りないぐらいだが、それだけの「何か」を司馬庫斯では体験できることも間違いない。

© 2024 Nojima Tsuyoshi