2013/06/03

その他


 4月に、人間ドッグを受け、その結果が届いた。どうせ何にもないに違いない。せいぜい、いつもの中性脂肪が高めですぐらいかと高をくくってペーパーを開くと、見慣れない文字に一瞬、思考が止まった。

「視神経乳頭陥凹による緑内障の疑いあり」。

 緑内障?視神経がへこんでいるの?お年寄りがかかる病気は・・・白内障だ。
 緑内障は怖い、という断片的な記憶が蘇って、ネットで調べると、最近患者が増えていて、40歳以上の17人に1人が発症しており、視神経の破損による視野の欠損が一度進行したら治すことは難しく、最後は失明する、と書いてある。
 ここまで理解して、ようやく自分の足元が崩れかけているような気分になった。

 いろいろ資料を読んでいると、原因ははっきりしていないが、パソコンの使いすぎによる極度の眼精疲労の可能性もあると書いている人もいる。それなら思い当たる。だいたい最低でも一日12時間ぐらいパソコンを使っている。目が疲れ切ってしまう日も多い。

 怖いので3日ほど何も考えられずに放置したあと、思い立って自宅の大井町の眼科医院を訪ねた。事情を話して、検査を受けた。目の撮影と視野検査を受ける。視野検査は生まれて初めてで、片目ごとに機械をのぞいて、光の点滅をボタンで知らせるのだが、やっていて、点滅に気づかないような気がしてくる。点滅のインターバルが長く感じ、背筋に冷や汗が流れている。やばい気がする。

 眼科医の先生の診察を受けると、視野検査の結果を見せられた。黒いところ、つまり見えない領域がけっこう多い。
「う~ん、かなり見えなくなっていますね。あと、陥没も広がっているようです」
つまり?
「初期の緑内障のようですね、これは」
目薬とか、ささなくていいんでしょうか?
「とりあえず2カ月後に再検査を受けて下さい。そこで症状の進行を見ましょう」
原因は?生活習慣と変えなくていいんですか?
「うんまあその辺はちょっとまだ症状をみないと分からないので・・・」
 
 根掘り葉掘り聞くことを何となく迷惑そうにしいているので、とりあえず診療代を払って、外を歩きながらいろいろ考えた。

 いまは45歳だから会社を辞めれば早期退職で退職金が二倍になるからそのお金で世界旅行に出かけて目が見えるうちに好きなところに行って好きなものを見て好きなものを食べなきゃ、見えなくなる前に点字を勉強しよう、などなど、いろんなことを考えた。
 
 しかし、よくよく考えて見ると、病気にはセカンドオピニオンを求めるのが大事だし、緑内障の判定はけっこう難しいとも何かに書いてあった。医師の友人に相談して業界で緑内障の権威と言われている病院を何カ所か調べてもらった。そのなかで自宅や会社からも近く、通院しやすい虎ノ門の眼科に予約を入れて、先週金曜日に訪ねた。
 
 雑居ビルの一フロアを使った小さな病院だが、ネットでは緑内障患者さんの評判がすごくよかった。看護婦さんやスタッフの対応が妙にてきぱきしている。再び視野検査を受けたが、「中心だけしっかり目を開いてみて下さい」と言われ、その通りにやっていると、光の点滅がよく見えて、どうも最初の時と調子が違うような気がした。それから、目の撮影用に目薬を差され、写真を撮ってから、髭とメガネの先生の診察を受けた。

 最初にひとこと「緑内障もどきですね」。
 もどき?緑内障じゃないの?希望にすがるように話を聞き続けると、私の視神経乳頭は通常よりもへこみが大きいため、健康診断で引っかかりやすいということだ。

「視野も問題ないし、緑内障の症状はまったく起きていませんね。ただ、緑内障もどきの人は、普通の人の発症率が100人に6人なのに対し、こっちは100人に9人というぐらいなので、少し確率が高いといわれています。だから年に一度、緑内障の検査を受けて下さい」
 前の病院では初期の緑内障と言われましたが?
「これはけっこう間違えやすいところでもあるんです。視野もちゃんとしているし、大丈夫です」
 パソコンの使いすぎとかありませんか?
「この緑内障については大げさなデマのような情報もけっこう流れて怖さがあおられている面もあります。弁護士さんとか検察官とか極度に緊張する仕事は緑内障にかかりやすい、ということはあるので、できるだけリラックスするようにして下さい。ただ、パソコンの使いすぎで緑内障になるならシステムエンジニアはみんな緑内障ですよ」

 この先生の言葉にはプロフェッショナルの確信がこもっていて、間違いないだろうと信じられた。でも、年に一回の検査は必ず受けよう。それと、時間があるときに、もう一カ所、検査を受けてみるのもいいかも知れない。視野検査と写真、診察などで2~3時間かかり、費用も5千円と安くはないが、目はとにかく大事だと改めて考えさせられた。

 ジャーナリストは体が資本の仕事だ。アームチェアに座っては何もできない。元気で外に出て人にあって現場に足を運べるなら何歳まででも書き続けられる。同業の先輩たちでいい仕事を成し遂げているベテランは、たいてい元気すぎるお年寄りである。

 だから、ガンや内臓系の病気には気を遣ってきた。脳のMRIも取って問題がないことを確認してきた。自転車に乗り、ジムに通っているのも、ある意味で、健康管理を徹底してできるだけ長く書き続けるようにしたいからである。だけど、目は盲点だった。だから本当に怖くなった。これからは目に優しくしなくては。DHA、ブルーベリー、トマト、ミカン、イチゴ、豚肉、にんにくなどなど、目にいいとされている食物、好きなものばかりだけど、もっと食べよう。
 

© 2024 Nojima Tsuyoshi