台湾「抗議デモ」の本質は反中ではなく「反・馬英九」

 台湾が中国と結んだサービス貿易協定をめぐる台湾の反対運動は、立法院(国会)を占拠する学生の抗議活動が長引くなか、3月30日には台湾全土で数十万人規模の抗議集会が行われた。馬英九総統は31日、今週木曜日に協定の審議案を立法院に送る考えを示し、学生たちの要求を一部受け入れつつ、最大の要求である審議差し戻しは拒否した。次の焦点は立法院に立てこもる学生の排除に馬英九政権が動くかどうかに移った。

 30日の抗議デモ自体は大いに盛り上がった。ただ、台湾の外に身を置く観察者として大切なのは、中国との協定に対し、台湾でどうしてこれだけの反対運動が起きるか、という点を考えることだ。

 このサービス貿易協定自体が、台湾に本当に不利かどうかは正直よく分からない。この協定によって台湾が中国経済に飲み込まれてしまい、失業者が急増し、空洞化が進むという主張がある。しかし、同時に台湾経済の対中進出にもいっそう道が開かれるわけだから、得るもの、失うもの、両方があるだろう。そういう意味では、台湾の人々が「政策的選択」を議論すればいい話に見える。

 それがこれだけの反対運動に発展したのは、一言で言えば、馬英九総統の求心力と信用が台湾社会で急速に失われていくなか、政権への不満という要素と、経済的に不振が続く台湾の将来への不安という要素が結びつき、矛先がこの協定に向けられたと理解すべきだろう。そこに、潜在的に台湾の人々が抱いている「中国に飲み込まれる」という恐怖感が加わり、雪崩のような運動に発展した、と考えるのが妥当だ。

 つまり主従関係でいえば、「反馬」が主で、「反中」が従という構図だ。

 今回の運動の学生たちの主張にも「反中」という色彩はそれほど濃くない。反対運動で最も幅広く語られているスローガンが「反対黒箱作業」、つまり秘密裏にこっそり事を進める馬政権の体質への批判であることにも、留意すべきだろう。

 思い出すのは、2006年の陳水扁政権時代、30万人を超えるデモが総統府を包囲した「赤シャツ運動」だ。陳水扁とその妻の公的資金流用などへの怒りが爆発したことが引き金だったが、やはり政権への失望が根底にあり、この運動でダメージを負った陳水扁はその後も低調が続き、2008年の総統選での民進党の歴史的大敗につながった。

 今回も2006年と構造的に似ていなくもない。奇しくも総統選まで2年という時間も似ている。協定がどうなろうと、冷淡な態度で学生たちを硬化させた馬英九政権は今後さらにレームダック化が進み、国民党の選挙情勢に影響を及ぼすことは間違いない。

 ただ、一方で、この運動のなかで、最大野党の民進党の影は薄く、参加者にはむしろ民進党を近づけたくないとの発想も根強いように見える。国民党の支持が弱まっても、民進党の支持が強まらないのがいまの台湾だ。これだけの大規模な民衆運動に絡めないとなると、民進党にとっては年内に控えた首長選挙と2016年の総統選挙が近づくなか、追い風どころかかえって逆風になり、結局消去法で選択肢は国民党ということにもなりかねない。

*国際情報サイト
「フォーサイト」 に執筆したものです。

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