台湾・第4原発を「次世代の判断に委ね」た馬英九政権の敗北

 福島第1原発の事故の影響で反対の声が広がっていた建設中の台湾の第4原発について、馬英九政権は2016年までの任期中の運転開始を断念した。運転開始の前提として自らが打ち出した住民投票も行わないことが事実上確定した。ほぼ完成している第4原発の1号機と2号機はそのまま「封印」され、実際に運転を行うかどうかは「次世代の判断に委ねる」(馬総統)ことになった。

 馬政権は「中止ではなく、停止である」と取り繕ってはいるが、9割以上建設が進んだ原発の建設がこの段階で中断に追い込まれることは、世界的にも異例なケースだろう。日本の原発メーカーも深く関わった原発だけに、そのインパクトは小さくない。

 建設主体の台湾電力は莫大な負債を抱えることになり、台湾の将来の電力供給にも影響が出ると見られているが、連日、台北市内の中心部で展開されている反対運動に押された馬政権が右往左往した末に追い込まれて下した苦渋の決断だった。

 事態は、台湾政治らしく、1週間の間にめまぐるしく変化しながら一気に進んだ。

 そのすぐれた人格や一党独裁時代の国民党に家族を惨殺された経緯から、台湾で与野党から一目置かれる環境保護運動の精神的指導者で、民進党の元主席でもある林義雄氏が、反原発のためにハンガーストライキを実行に移したのが4月22日だった。

 林氏の支援の輪に加わる数万人が台湾の街頭を占拠し、警察との小競り合いで逮捕者も続出した。すでに国民の支持を半ば失っている馬政権は、この運動に抵抗するだけの力を残していなかった。与党・国民党は24日、建設中の第4原発をまず完成させ、安全検査を行い、そのあとに住民投票で民意を問う方針を確認し、馬総統も支持した。

 ところが、反原発の声はまったく収まることはなく、25日に馬総統と、民進党の蘇貞昌主席が、異例の会談を行って全内容を公開したが、事態の収拾にはつながらなかった。

 そして27日、馬政権は、96%まで工事が進んだ1号機は「工事を中止し、安全検査のみを行って封印」し、91%まで工事が進んだ2号機は「工事を中止」すると発表した。住民投票も、将来、改めて建設を再開するかどうか決めるときに実施するという形となり、事実上、馬政権として第4原発を放棄した形となった。

 今年の年末に中間選挙的な位置づけである地方首長・議員選挙が控え、さらに来年末には国会にあたる立法院選挙、そして、再来年春には総統選挙が待ち受けている。当初、馬総統は原発推進の立場にこだわっていたとされるが、第4原発を放り投げることで国民党への支持をつなぎとめようという国民党の立法委員たちや首長たちの説得を受けて、最終的に屈辱ともいえる決定に追い込まれた。先日の中国とのサービス貿易協定で学生運動の立法院占拠に屈したことに続く「敗北」であり、レイムダック化が深刻になっている馬総統はますます求心力を失うだろう。

*国際情報サイトフォーサイトに執筆したものです。

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