国民党「敗北」の流れ:台湾の統一地方選

*国際情報サイト「フォーサイト」に執筆したものを一部アップデートしたものです。

 残り3週間となった台湾の統一地方選挙(11月29日)だが、メディアの各種世論調査がいろいろ出そろってきた。国民党が相当苦戦しており、下手をすれば、台北市長と台中市長という2つの市長ポストまで失う可能性が出てきている。台北、新北、桃園、台中、台南、高雄という6大都市でみれば、いままで国民党は台南、高雄以外を抑えて4:2の割合だったが、これが2:4に逆転して新北、桃園のみとなり、全体の首長ポスト数でも国民党と民進党の比率は現在の15対6から、どちらも10前後と互角の形になりそうだ。こうなると、国民党にとっては「敗北」と言ってもいい事態である。

 統一地方選は2016年の総統選の前哨戦という位置づけのため、その結果は国民党と民進党の2大政党の党内力学に大きく影響し、総統選の対決構図を左右するところに面白さがある。今回、新北市で圧勝するとみられる国民党の朱立倫は、馬英九総統の後継者として呉敦義副総統らライバルたちに実績で先んじた形になる。今後は新北市長に当選したばかりで総統選に立候補できるかどうかが焦点となるだろう。民進党の対抗馬は、主席として今回の選挙を指揮した蔡英文が、2度目の総統選挑戦に向けていっそう有利な立場になるはずだ。

 上向く兆しのない馬英九政権の不人気に加え、3月のヒマワリ学生運動、香港の民主化要求デモ、そして、台湾で現在燃え上がっている食用油の不正使用スキャンダル(廃油を食用油に再利用した問題)などが、いずれも結果的には馬英九政権に打撃となって跳ね返ってきている。

 台中市長選挙の世論調査では、国民党の現職で、4期目(前の2期は市県合併前)を目指すベテラン人気政治家の胡志強が、民進党の中堅で元立法委員(国会議員)の林佳龍に、大きくリードを許している。日刊紙『聯合報』の最新の世論調査では、胡志強は林佳龍に16ポイントの大差をつけられていた。テレビ局『TVBS』の世論調査でも、1カ月前とほとんど変わらず15ポイントの開きとなっており、逆転はかなり難しい状況になっている。

 また、最大の焦点となっている台北市でも、当初楽勝と思われていた元国民党主席・連戦の息子の連勝文が、民進党が応援する無党派候補で医師出身の柯文哲に苦戦を強いられている。世論調査では、聯合報では13ポイント、中国時報では9ポイント、TVBSでは15ポイント、自由時報では20ポイントと、いずれも大きく引き離されている。食用油スキャンダルを起こした会社が連ファミリーと近く、逮捕された社長が連勝文と同じ豪華マンションに住んでいたことなどもあって、いったんは追い上げの機運があった連勝文の勢いが失速してしまい、このままいけば国民党は1994年の陳水扁当選以来の敗北を牙城・台北市で喫する緊急事態に陥ってしまう。7日夜には、連勝文と柯文哲との間でテレビの生中継による公開討論が行われたが、直後の聯合報やTVBSの世論調査でも差はほとんど縮まっておらず、柯文哲優勢の状況に大きな変化はなかったようである。

 今回、ほかにも基隆市や彰化県、澎湖県など、伝統的に強かった市や県で国民党が苦戦しており、逆に民進党のポストをひっくり返すことができる可能性が残っているのは中南部の雲林県ぐらいではないだろうか。総統選にとって重要な指標となる全投票数が国民党と民進党にどのように流れたかを比較するデータは選挙後にならないとわからないので何とも言えないが、国民党は良くて五分五分という苦しい状況に持ち込まれているという。民進党にとっては8年間失っていた総統ポストの奪還に向けて勢いがつき、国民党の危機感は一気に高まる。ここ10年近く基本的に国民党優勢できた台湾政治の流れが、大きく変わろうとしているようだ。

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