2015/03/11
「復活した台湾映画」を30回以上、このブログで書いてきて、その成果は2月に『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』を明石書店から出版することができました。台湾映画に特化した映画紹介はここで一段落させ、これからは台湾だけではなく、中国、香港など中華圏の映画に韓国や東南アジア、インドなども含めて、「これはぜひ日本にきてほしい」「日本に来たからみてほしい」というアジアン映画を紹介していきたいです。
『推拿』
予告編(中国語)ここからどうぞ
初めて記者になった23歳の夏、視覚障害者の団体で事件が起きた。補助金の不正使用である。記者になって初めて担当するちょっとした事件だった。佐賀県の視覚障害者施設や団体を牛耳っていた人物が、要するに自分のために施設や公の資金を流用したという、分かりやすい事件だった。
しかし、取材する相手がちょっと難しかった。というのも、視覚障害者なので、なかなか大胆に接近することができない。というか、気後れした。しかし、当時は怖いもの知らずの年齢だったこともあり、なんとか団体のなかに情報提供者と関係を結び、いろいろな話を聞けるようになった。その人たちとは、いまも実は付き合いが続いていて、何年かに一度、佐賀に行くときは彼らの顔を見るために立ち寄って、そのたびに「あの頃は」なんて話ができる関係が続いている。
そのとき、実感したのは、視覚障害者たちの生命力、パワーだった。彼らは、非常に生きることに執着している、と感じた。欠けている部分があるから、ほかの部分が鋭敏になる。例えば、手先の感覚は、視覚障害者は非常に鋭い、いろいりなものを触って確かめるので、感覚が研ぎすまされるのである。
そんな視覚障害者の生態を描ききった作品がこの「推拿」だ。「推拿」とはマッサージの意味。2014年の金馬奨で最優秀作品賞を取った。視覚障害者によるマッサージ店、いわゆる「盲人按摩」の店で働く10人ほどの人々をめぐる物語である。
品のない言い方をすれば、彼らは非常にスケベである。性欲をもてあまし、小さな店のなかで誰構わず相手をみつけて手を出そうとする。そのエネルギーを描いているのと同時、視覚障害者の生きている世界がどんなものかも、生々しいセリフで伝えてくれている。
「健常者と我々との間には、健常者が考える以上の隔たりがある。目が見える世界は主流世界。我々は違う世界に住んでいる」
これは私にとっては、理解できるようで、本質的には理解できない部分だ。誤解もされかねない。このセリフだけではなく、視覚障害者のネガティブな部分を描ききった監督の、表現に対する勇気と、視覚障害者の生きる世界をできるだけ性格に誠実に伝えようという誠意を感じた。
その監督は日本でも公開されている「二重生活」を取ったロウ・イエ(漢字が難しすぎるのでカタカナで)。「天安門、恋人たち」という映画で5年間の制作を禁じられたと伝えられる。しかし「二重生活」も本作も高く評価されており、いま中国で最も勢いのある監督の一人である。原作は、中国の「茅盾文学賞」をとった同名の小説だ。役者には、本当の視覚障害者も出ている。台本も点字で用意したという。女優の張磊は金馬奨で新人賞を獲った。
こういうテーマでは、どうしても内容が説教臭くなり、娯楽的ではなくなることが多い。しかし、テーマで、これだけ最後まで引きこませる作品を作ってしまう中国映画界のパワーはあなどれない。