台湾「総統選」国民党候補は「王金平」か

*国際情報サイトフォーサイトで3月12日に執筆したものです。

 台湾政治では、国民党と民進党という2大政党のウォッチの仕方はそれぞれ違っている。両党の性格に深く根ざした党文化と言うべき意思決定の特徴があり、その点を理解していないと流れを読み誤ってしまう。

 民進党は、日本の民主党型で、言いたいことを言い合っている間に、次第に結論へ収斂されていく傾向にある。収斂されないときは喧嘩になる。議論の最中はけっこう難しい顔をしているが、決着がつくとすっきりした顔になっていて、「議論は民進党の文化だ」と言って笑っている。

 国民党は自民党的で、内部の議論はあまり表に出ることはない。いわば談合型だ。お互いの利害を調整し、内々でまとまったときに初めて全貌が見えてくる。しかし、だからといって対立がないわけではなく、シグナルを微妙に出しているのでそれを見逃してはならない。どちらかというと、国民党の方がウォッチは難しいし、職人的な作業と読みが求められる。

すでに密約が!?

 そうしたシグナルを総合すれば、この1カ月で見えてきたことはどれも「王金平総統候補」への道筋が敷かれつつあると理解できる。

 王金平は現立法院長(国会議長)で1941年生まれ。台湾南部に地盤を置く国民党本土派(非外省人系)のベテラン政治家で、12期にわたって立法委員を務め、1999年からは立法院長を務め続ける。いわば「国会のボス」だ。李登輝元総統に近く、馬英九総統とはあまり関係が良くないとされてきた。

 まず、朱立倫・国民党主席は、昨年馬総統が提起した王氏の「口利き」疑惑について、党内での処分手続きを継続しないことを最近決めた。この問題を「是々非々」として強硬に処分を主張していた馬英九総統の意向に反するもので、その決定の直後、馬総統は朱氏とのイベント同席を直前でキャンセルして不満を明らかにし、馬・朱関係にヒビが入ったことが示された。

 一方、朱氏サイドから王氏に対し、「朱氏はは出馬しない」との意向が伝えられたという報道が流れた。これは、どちらかが言わない限り表に出ない話で、反応を見るための観測気球として流された可能性は否定できない。

 出馬に関する王氏の言葉も、次第に「否定」から「曖昧」なニュアンスの言い方に変わってきている。最近でも王氏出馬を伝えるメディアの報道で「それはメディアの見解。出るか出ないかは私自身の見解次第だ」と述べた。台湾の政治的言語の読み方で言えば、出馬に傾いていると見えなくもない。

 こう考えると、王・総統候補、朱・副総統候補というコンビの可能性が高まっていると感じさせる。ただ、朱氏は副総統としても出馬せず、党主席として支える方向に傾いているとも言われる。いずれにせよ、王氏出馬は王、朱両氏にとってメリットがある。それゆえに、2人の間ですでにある種の「密約」が形成されたと疑われても仕方がない。

辛い立場になった馬総統

 もともと王氏は総統への野心があったが、馬総統に2005年の党内選挙で大差の敗北を喫して夢を断たれた。以来、王氏と馬氏の間には拭いきれない不信感が生まれた。一方、朱氏は、人気は国民党で一番手だが、自身は今回の出馬は不利とみて、出馬しない方向に傾いているとされる。逆に、高齢の王氏は立法院長の座に選挙後もとどまれるかどうかは国民党自身の過半数が危ぶまれるなかで保障されておらず、ここで人生最後の一か八かの勝負に出ようという気持ちになっても不思議ではない。馬総統が念頭に置いていたと見られる呉敦義副総統は、世論調査で支持率が低すぎて勝負にならないとの見方が強い。

 もし王氏立候補となっても国民党の苦戦は変わらないが、同情したくなるのは馬総統だ。11月の地方選敗北の責任をとって党主席を退いたことで、総統候補選びにおいて、発言権はあっても決定権はない馬総統は主導できない立場になったことが今回はっきりとなった形だ。不満を口にするほど、「党の団結を壊さないで欲しい」という声が党内からは浴びせられ、沈黙を強いられる。

 しかし、選挙戦となれば、現職総統として王氏の手を握って投票を呼びかけなければならない場面が何度もあるに違いない。「台湾司法で最も暗い1日」と呼んで、王氏の「口利き」を批判して政治生命を奪おうとした馬総統にとっては、その輝きに満ちた政治家人生の最終局面で、政治の残酷さを嫌が応にも味わう日々が待つことになるかもしれない。

© 2019 Nojima Tsuyoshi