*国際情報サイトフォーサイトに5月18日に執筆したものです。出張などありしばしブログに転載するのを忘れていました(笑)。ですが、状況はあまりその後も大きくは変わっていません。国民党の人選はまだまだ混迷しそうで、もしかすると6月後半とか7月にずれ込むかもしれません。

「不戦敗」の声も:混迷する台湾・国民党の「総統選候補」選び

 台湾の与党・国民党の総統候補選びが混迷に陥っている。5月16日の立候補受け付けの締め切りまでに、これまで有力な候補者と見られていた王金平・立法院長、朱立倫・党主席、呉敦義副総統などが次々と不出馬を宣言した。

 立候補受け付けには洪秀柱・立法院副院長や楊志良・元衛生署長らが応募したが、それなりに知名度がある個性派ではあるものの、いずれも「大物」とは言えない。すでに早々と出馬を確定させている民進党の蔡英文氏に勝てる候補になるとは思えず、党内からは「事実上の不戦敗」との懸念も出ている。

 今後、洪氏らは世論調査と党員投票によって選考が行われるが、国民党内のルールでは、「党の調整」にも含みが置かれており、洪氏らの支持の広がりがなければ、党が候補者を指名する可能性も残されており、今後もすんなり決まらずにずるずると引き延ばされ、ますます戦況が不利になる恐れもある。

切れてしまった2人の関係

 14日から16日にかけて、台湾では国民党の候補者選びで目がくらむほどの激しい動きが展開された。口火を切ったのは呉敦義氏で14日、「総統選に出ないという気持ちには変わりがない」と表明した。一時は人気の低さから目が消えたかと思われていたが、王金平氏と朱立倫氏のにらみ合いで一部に待望論が出かけていたところ、自ら火を消した。15日には、王金平氏が「皆さんの期待に応えられずに申し訳ない」と語って事実上の不出馬宣言。王金平氏は一時出馬に自信を持った時期もあったようだが、馬英九総統を含めた党内の反発を抑えきれないと判断したのか、最後の最後で「撤退」に傾いた。 

 そして、情勢に混迷の印象を加えたのは、馬英九総統が15日に台湾紙『リンゴ日報』との間で行った単独インタビューで、朱立倫氏が総統選に出馬しない意向を示していることを痛烈に批判したことだった。

「過去の世論調査をみれば、彼は勝てる見込みがないわけではない。ほかに勝てる確率が高い人には会ったことがない。党がこんな状態にあるなかで、個人的な事情は後回しにすべきだ」

「(自分が朱立倫だったら)もちろん重責を担う。自分は教授だったときも(台北市長選で)重責を担った。党主席だったらなおさら逃げられますか」

 この発言からは、馬英九氏と朱立倫氏との人間関係が切れてしまったことが分かる。在任中の総統がここまで言ってしまうところが、馬英九氏らしさでもある。しかし、朱立倫氏はそれでも動かなかった。

 結局、朱立倫氏は16日の立候補受け付け時間終了と同時に記者会見。総統選には出馬しないことと、現在務めている新北市長の任期を全うすること、党の団結強化に全力を尽くすこと、今後候補者選びの手続きをしっかり進めること、来年1月の総統選で敗れれば党主席を辞任することなどを明らかにした。

 これは党内の待望論にとどめを刺しながら、馬総統の批判に反論した形であり、同時に自らの今後数年間の政治日程を確定させたわけである。「あらゆる疑問や憶測に答えます」とでも言わんばかりだ。

想像以上に深刻な“病状”

 それにしてもこの3日間の出来事はちょっとしたドラマよりもはるかに面白い展開で、私を含めて台湾ウオッチャーは大変楽しい思いをしたのだが、ふと気がつくと、国民党は誰を立てるべきかという肝心の問題で本来の「当事者」たちが全員逃げてしまった形で、結局は何も決まっていないのである。

 これは果たして国民党崩壊の序曲なのか、それとも、反転攻勢のための死んだふりなのか。もしも当事者たちがシナリオを共有して演じていたとすればアカデミー賞ものなのだが、どうやら全員が大真面目に行動しているようで、だとすれば国民党の病状は想像以上に深いと言わざるを得ない。

© 2019 Nojima Tsuyoshi