2016/08/25

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 現在台湾でちょうど公開中の「樓下的房客」(階下の住人たち)という作品をみた。
 すごい映画である。何がすごいかというと、この映画は確実に大ヒットにはならないと分かっていながら、あえて撮ったところがすごい。そして、内容は確かに面白い。面白いが、100人が見て、100人とも「見て良かった」と言われるような映画ではない。面白いことと「見て良かった」と思われるかどうかは別なのだ。この映画をみた人の多くは「面白かったが、見なくても良かったかも」と思うのではないだろうか。
 それぐらい、残酷でエグいシーンが最初から最後までこれでもかとばかりに続く。私もこうみえて流血に弱い方なので、途中で目をつぶりたくなった。隣の隣に座っていた中年の女の人は途中から横を向いてしまっていた。好みもきっと大きく分かれるので、一人で見にいったほうがいい映画である。しかも時間帯は晩ご飯を食べたあとの遅い時間をお勧めしたい。見る前には肉は食べるべきではないだろう。
 原作は「あの頃、君を追いかけた」や「等一個人咖啡」(これまだ邦訳タイトルないですよね?)などで映画業界に殴り込みをかけている台湾のネット小説作家、九把刀(ギデンズ・コー)である。この作品の原作は読んだことはない(彼のどの作品も読んだことはない)けれど、前の二作と比べると、その作風の幅の広さも感じさせる。たいした才能であると思う。「あの頃」も「珈琲」もほんわかした、でも、ちょっと切ない喪失感のある青春映画好きの私好みの作品だが、これはサイコサスペンスのスプラッタームービーである。
 エグゼクティブプロデューサーは、ほんとにいろいろスキャンダルにこの何年か巻き込まれっぱなしの「アイドルドラマの女王」こと、台湾芸能界の権力者である柴智屏で、九把刀原作ではいつも彼女が仕切っている。個人的にも食事もしたことがあり、美人だし面白い人なので柴智屏はとても応援しているのだが、なかなか嫉妬と意地悪と本人の狡さもあって、いろいろトラブルに巻き込まれやすい人である。主演は、香港の俳優の任達華で、この起用はとてもあたった。不思議なサイコ女を演じた邵雨薇も不気味で良かった。
 演技が光ったのは、ほかにはやっぱり李康生だった。この人は、蔡明亮の作品に出ていないときのほうが伸び伸び演じている。どんどんいろんな映画に出てほしい。私は同性愛に拒否感を持ってしまうコンサバなのであまりシンパシーは感じなかったが、映画のなかのゲイの役柄も、すごくはまりすぎるほどはまっていた(深い意味はありません)。
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 一人の男の妄想とも現実ともつかない話を、取り調べの警官に向かって語り始める。この男は、マンションの持ち主であった。そのマンションには、奇妙な住人たちがある。同性愛の師弟のカップル、多くの男と愛人契約を結ぶ美女、娘を奇妙なまなざしで見つめる父親、欲求不満の体育教師、超能力を信じるニートの若者、そして、赤いトランクを大量に部屋のなかに集めている透明感のある美少女。これらの暮らしを、主人公は監視カメラで除き続ける。だが、やがで男は新しい行動に出る。それは、人々の心を操ろうとして、住人たちの生活に介入しようとするのである。
 普段の映画コラムでは、台湾映画は外国のものだし、あんまりネタバレ気にせずかいていて、映画関係者からはビックリされることもあるのだが、ネタバレが怖くて映画評は書けないという気もする。ネタを説明しないと深いことは書けない。しかし、この作品はサイコサスペンスかつ一種のミステリー仕立てになっているのでさすがにネタバレは避けたほうがいいかもしれない。だから内容については控えておく。
 ただ、はっきり言えるのは、これまでの台湾映画にはあまりなかった残虐性や変態性、セックスなどの要素をたくさん取り込んでおり、きっと間違いなく園子温の影響を受けている。そこに、原作者である九把刀のオタク・引きこもりワールドをちょっと混ぜ込んでいる、という作品だ。見て損はない。だけれど、覚悟はしておいてから見てほしい。
★★★☆(星3・5/星5つで満点)

© 2021 Nojima Tsuyoshi