2016/10/03

その他

拙著「台湾とは何か」が、Amazonでこの1ヶ月以上、ずっと在庫切れになっている。在庫切れといっても「在庫なし」ではなく「通常2〜4週間以内に発送します」という表示なのである。これがときどき「1〜4週間以内」に切り替わったりすることもある。しかし、在庫ありにはならない。一ヶ月ぐらいずっと出版元である筑摩書房に「いつごろ解消されるのでしょうか」と聞いていて、「リクエストは出しているのですが・・・」という返事なのだが、一向に変わらないので、正直なところ、半分ぐらいはもうどうでもよくなってきている。しかし、やっぱり何かがおかしい気がするので(明日にはもしかすると「在庫あり」になっているかも知れないが)ここで思ったことをいちおう書いておきたい。

在庫がなくなったはちょうど一ヶ月ほど前に増刷が決まる直前で、最初のころは、増刷が刷り上がるまえでの補充のタイムラグで、在庫切れになったと思われる。しかし、増刷が刷り上がってからもう一ヶ月ぐらいが経過しているが、筑摩書房の説明では「本の追加補充は行っているのですが、いっこうに反映されません」ということらしい。

そして「Amazonが利ざやの大きい電子書籍の販売を増やすために、意図的にこうしているとしか思えない。ほかにも疑わしいケースがあるのです」という説明を受けている。電子を売るためにリアルの書籍を在庫切れにしておく・・・。そんなことが起き得うるのかにわかに信じがたいが、もしこれが本当だとすれば、Amazonは書店として、してはならないことをしていることになり、著者としては、書籍を電子化することに今後は応じられなくなってしまいかねない。なにしろ電子書籍の印税は高いものではないので、リアル書籍プラスαという意味ではメリットがあるが、電子ありきではやっていけるものではない。

それにしても、以前からAmazonと出版社の関係は、著者にとってはナゾだらけだ。出版社と書店は手を携えて本を読者に届ける関係にある。著者と読者をつなぐ存在である。そして、本来、紀伊国屋のようなリアル書店と出版社は、それぞれ利害関係はあるとしても、基本的には共同作業して読者に本を届ける役割を担ってきた。そこでは、両者間でしっかりとしたコミュニケーションが当然可能だった。

しかしながら、現在、Amazonと出版社との間には、多くの問題が解決されないまま、信頼関係が一向に構築されず、出版社のAmazonに対する疑心が渦巻いており、コミュニケーションもうまくできない状況が続いている。電子書籍を売りたいためにリアル書籍を「在庫なし」にしているのではないかと出版社側が受け止めて(疑っている)いること自体、異常事態と言えるだろう。

これは、長年の出版業界の慣習と大きく異なるネット書店という流通方法が誕生し、その結果、古い慣行を残していた出版業界のやり方とそぐわないところも多いまま、Amazonがリアル書店をはるかに上回る販売力をつけてしまったことが原因である。Amazonの存在は本当に便利で、私も毎月何万円もAmazonのアカウントを通して本やモノを買っている人間であり、Amazonなしでは生活できないような形になっているが、一歩引いてみて見ると、Amazonが登場してこれだけ時間が経っているにもかかわらず、なお適切な関係を築ききれていないAmazonと出版社の関係はやっぱり健全ではないと思える。

自分の本ことなのであまり声を大にして語りにくいことだが、現状では、Amazonと出版社の不幸な関係は、結果として、著者だけでなく、本を買いたい読者の利益を損なっている。出版社に苦情を言っても「Amazonには私たちも困っているんです」などと言われるだけだし、Amazonにはどうコンタクトしていいかも分からないし、売れても一万部とか二万部ぐらいの部数である私のような書き手が訴えてもすぐに動いてくれるとも思えない。もはや、ため息しか出ない気分である。

© 2024 Nojima Tsuyoshi