台湾における日本の福島等5県の食品輸入問題について、りんご日報に日本在住の台湾の作家・劉黎兒さんが書いたコラム「說謊太多,核食會是拖垮小英府的稻草(「ウソばかりの説明で、核食が蔡英文政府を倒す稲わらになる)」が、いろいろ話題になっています。その内容を全文日本語にしてみました。

内容は交流協会の柿澤未知さんの反論からもわかるようにかなり根拠の乏しいものもあり、荒っぽい議論に思いますが、一方で、この問題を他人事とは全く思っていない怖いぐらい真剣に考えている台湾人の思考方法や反対のロジックを理解するうえでも役に立つ気がします。

いずれにせよ、この記事は10万PVも読まれて、大変な影響力ある内容になっており、私にとっては記録の意味も含め、関心のある人は目を通しておいたほうがいいと考え、長くなりますが、訳文にしてみました。
(注意:1時間ぐらいで一気に訳したので、95%は間違っていないと思いますが、難しい専門用語もあり、仕事としてではないので、完全な訳文ではないことはご承知ください)

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りんご日報の劉さんのコラムの原文はこちら→https://tw.appledaily.com/new/realtime/20180201/1289730/

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「ウソばかりの説明で、核食が蔡英文政府を倒す稲わらになる」

劉黎兒/旅日作家

「衛生福利部は最近、日本の「核食」について「地域管理」から「リスク管理」に変更することを検討しているとし、「近年各国では次第に日本食品への規制を緩め、世界でただ中国と台湾だけ禁止している」と述べた。

しかし「核食」に関して、蔡英文政府は実際あまりにウソをつくことが多すぎる。現代の情報化社会では、国民は怠惰な官僚よりよっぽど知識がある。

例えば、現在、世界で60ヵ国がまだ日本食品を規制している。中国の管理はさらに厳格化しており、青森のりんごに放射能濃度の証明書をつけるという新しい要求を行い、2017年に中国への輸出はゼロになった。(政府は)EUが昨年末に秋田県の食品輸入を解禁したというが、秋田県の食品はもともと台湾はこの7年間禁止していない。

官僚は嘘つきで、「核食」(または「核災食品(原発事故食品)」=台湾で福島など5県の食品を指すときに使われる言葉)はまるで稲わらのようにささいなものだといわんばかりだが、蔡英文政府が「核食」問題で倒れてもOKだというのだろうか。

日本側は原発事故の真相を隠蔽するため、台湾人の日本好きをいいことに、台湾に圧力をかけつづけている。極端なほど愚かで、台湾への関心と理解に欠けたことだ。放射能汚染の拒否と反原発は「非核社会」の価値であり、台湾人の党派を超えた核心価値であり、蔡英文政府の核心価値でもある。「核食」のために、歴史上もっとも親日的な蔡英文政府が倒れ、世界で最も日本を愛する台湾人を怒らせるのはまったく割に合わない。近視眼的な日本の官僚が出世のために圧力を欠けているが、自制すべきだ。

憎むべきは、総統府のスポークスパーソンの黃重諺、農業委員会副主任委員の陳吉仲、行政院食品安全室の主任の許輔、衛生福利部長の陳時中や同部次長の何啟功などの人間で,多くの嘘を吐き続け、台湾人に「実は安全なものもある」といって「核食」を台湾人に食べさせようとしいる。

99ベクレルは放射能汚染食品ではないと主張し、御用学者の意味のないレポートにある「低リスク」の考えを取り入れ、食品関係の環境保護団体に資金を提供して「核食」の摂取に前向きなことを言わせているのは、本当に信じがたいことだ。蔡英文政府は、放射能による被害を食い止めたい国民の核心的な価値観をどこまで台無しにすれば満足するのだろうか。

彼らの「ウソ」にはこうしたことが含まれている。

1)日本の農水省のウエブサイトをみれば、まだ33ヵ国が原発事故関係地域の食品を規制または厳格な検査を行っている。しかも、これはEU28ヵ国を1ヵ国と言い換えているので、事実上は60ヵ国が日本食品を規制している。台湾のような規制しているのは7ヵ国・地域で、韓国、中国、シンガポール、香港、マカオ、ロシア。米国、レバノン、フィリピンは全面禁止である。

2)衛生福祉部が言うほど、中国やヨーロッパが規制緩和には動いていない。中国は厳格化しており、2017年には放射能検査の証明書を要求した。EUの解禁はブリ・ハマチのみで、台湾がもとより禁止していない秋田の食品も含んでいる。中国とEUを規制緩和の例にあげるのはウソである。

3)米国は日本の属国ではなく、日本が解禁したらすぐに解禁するなどということはない。米国のFDAは福島や周辺の食品数十種類に規制を行っており、これは米国の自主的な調査によるもので、日本の厚生労働省の検査結果は参考にすぎない。米国に規制される日本食品の多くが、日本では一日たりとも規制を受けたことはなく、日本はたんに検査結果が基準値を超えたときにその超えた食品だけを禁じている。

かつて、米国のサンディア国家実験室で働いていた核廃棄物の専門家である卓鴻年によれば、米国は日本に直接検査官を派遣して食品を検査しており、日本の資料に頼っているだけではない。米国のFDAは日本の14の自治体の食品輸入を規制しており、禁止項目もそれぞれ違う。FDAは900人の調査員と450人のアナリストを抱えており、毎年海外に調査員を350回派遣しており、非常に真剣そものだ。

台湾の食品輸入の4分の1は日本からなのに、全体の4%でしかない米国の日本食品の輸入と根本的に条件が違っている。台湾の役人が調査したとしても、日本の公的資料に頼るだけ。民間の検査結果と完全に違っていることもあえて無視している。

4)台湾の役人はなにかにつけて「政府は放射能汚染された食品を輸入させない」と主張するが、根本的に不可能なことだ。原発事故地域の食品には必ず放射能が含まれる。役人は1キロ100ベクレルの基準で考えるが、99ベクレルならば放射能汚染食品ではないのか。この政府の人々は科学をわかっているのだろう か?

たとえ検査体制に問題がなかったとしても、政府は台湾人に99ベクレルの食品を食べさせようとしているのだ。しかし、日本のスーパーは普通は10ベクレル以下や不検出の食品を販売しているが、食品流通監視団体の「白色食品」は「0.5ベクレル以下」を基準としている。日本人が10ベクレル以上のものを食べないのに、なぜ台湾人が99ベクレルの食品を食べないといけないのか。

5)衛生福利部は、このたび、「低リスク」のバカなレポートでもって「核食」のことを解禁しようとしている。これは2016年末に監察委員の張武修らが提案していたことだ。その報告には疑問点が多々ある。すべて日本の公式資料に基づいているが、日本政府のサンプル検査は数が限られ、民間の検査のほうが危険値は高く出ている。いまの日本食品は台湾輸入の25%を占めており、「核食」は値段が安いので、もし開放されば、台湾の業者は必ず大量に買い集めるだろう。レポートでは「核食」の割合は0.1%しかないといているが数字をごまかしているだけで、実際のリスクは数十倍なのだ。もしもICRP(国際放射能保護委員会)の基準で計算すると、厳しく検査したとしても、台湾は毎年「核食」の輸入のため、少なくとも4人から2人がガンで死んでしまうことになる。

ふたつのレポートは、「核食」の検査で3万あまりの検査の結果、99%が100ベクレル以下の基準で合格していると書いているが「白色食品」の基準であれば、5件しか合格していない。台湾人はなぜこのような不合格の食品を食べないといけないのか。

6)衛生福利部次長の何啟功は「6年あまりで,原発事故地域からの輸入は11万5千件あり、220のサンプルから微量の放射能が検出されたが、基準値以下であるとしているが、何啟功は勘違いしていないか?過去6年の検査は等しく非事故地域の食品の輸出であり。「核食」は、日本でいまに至っても基準値を超えていることが当たり前になっている。

福島の海産物は2013年、1キロあたり51万ベクレルという記録的数値が観測された。その後、数値は減少したが、ときおり基準値の数百倍の魚を捕獲している。公的資料によれば、2017年第一季に福島の海産物は2500件のサンプル調査を行い,異常値の検出は2件だけだったとしているが、こうした基準値超えは、実際はセシウム137だけを検査しており,検査が難しいストロンチウム90は検査していない。日本の文科省も認めているように、福島の水産物はストロンチウムの影響は大きく、それを日本政府は調査をしようとしない。台湾が日本から輸入する水産物は大量で、昨年東京電力が発表した資料には黒鯛にストロンチウム90が含まれていたと指摘している。

日本人はいまに至っても福島や周辺の食品への消費意欲が非常に低く、日本のスーパーには福島の農産品はあるが、価格は安く抑えられ、福島産と銘打った肉や魚は売れない。日本人も「核食」は食べたくないのだ。日本の消費者庁の調査によれば、日本がもっとも恐れる「核食」の産地は、福島のほかは宮城と岩手なのに、台湾は原発事故後、一日たりともこの両県の産品を禁止したことはない。

日本経済新聞が一面トップで報道したことだが、東北のアワビやカキなどの水産品は国内外のマーケットを失ったので、大量に台湾に輸出され、台湾は事故後、日本の水産品の第一の輸出国になったとしている。台湾はすでに日本のために大量の放射能食品を輸入しており、もしも「核食」を開放してしまったら、そのときは必ず大量に台湾になんの管理もなく輸出され、リスクは想像できないぐらい高くなるだろう。

2013年夏に判明したことだが、福島第一原発からは数百トンの高濃度放射線を含んだ水が海に今日に至るまで排出され続けた。東京電力が数百億円を費やした氷の壁も失敗し、周辺の魚類は日本人も食べようとしない。農林産品については、大量のカリウムでセシウムを隠しているだけで、セシウム米やセシウムいちごなど、本当にローリスクと言えるのか。張武修は放射能の基準値は個人差が大きく、すべての人には適用できない、放射能は子供や若者には害がない、「セシウムをたくさん食べても死なない」と言ったことがある。このような人間のレポートを使おうという衛生福祉部はまったく理解できない。

政府には国民の健康を守る義務があり、政治・経済でのパートナーであることを理由に(日本の要求を受け入れて)台湾人に放射能に汚染された「核食」を国民に食べさせることは、蔡英文政府を崩壊に導くものである。」(終)

© 2024 Nojima Tsuyoshi