2023/03/09
【長文ご容赦】
本日発売の週刊文春で日本経済新聞の『台湾、知られざる素顔1』について書いています。
少し経緯を説明すると、この週末に執筆し、編集部に渡したのが校了日月曜日の6日の朝。すぐに編集部経由で日経に質問状を送りました。主な質問は「報道が台湾社会で大きな反響、混乱を生んでいることをどう考えるか」「(退役軍人幹部が大陸に渡って情報を売っているなどとした割合が)9割という数字の根拠を示して欲しい」の2点でした。回答は夕方戻ってきました。内容は記事にあるように「記事中のコメントは取材対象者の見解や意見を紹介したものですが、台湾当局には真摯に対応してまいります」というものです。そして翌日朝刊で、日経の事実上の謝罪文が出ました。こちらの質問状が最後の一押しになったと想像します。
しかし、回答を慌てて作ったせいか、日経のコメントは非常に曖昧で、何に対して何が問題でなぜこうなったのか、まったくわかりません。新聞の訂正欄が短いのは承知していますが、どんなもんなんだろうかと正直思います。
いずれにせよ、ジャーナリズムに身を置くならば、ネットで文句を言うより先に媒体の記事で挑むのが本筋。そして、日経が謝ったあとにこういう記事を書いたとしたら後出しジャンケンになるので、あえて経緯を説明させてもらいました。
記事は短いコラムなので「9割」の問題に絞りました。連載全体のトーンにも問題はありますが、やはりカッコの中の引用とはいえファクトの扱いがいい加減だったことが取材の甘さを示しています。逆にそこへ的を絞ったことで、日経は答えようがなくなったのかもしれません。
台湾は優しく楽しい場所ですが、周到にやらないとしっぺ返しを食う「地雷区」がいくつかあります。私も痛い目にあったことがないわけではありません。今回の日経の記者は、おそらく無自覚のまま、ある種の使命感を先行させてアマチュア的に「省籍と国軍」というリスク分野に踏み込んでしまったものです。
付け加えると、台湾では日経という媒体のありようと絡めてこの問題を論じる向きがありますが、それは素人の見方で、今回は記者個人の属人的な仕事の結果でしょう。日本の新聞がこのぐらいの記事で社のポリシーを込めることは通常ありません。