2025/07/06
台湾で上映中のドキュメンタリー『造山者』を週末の映画館で見た。感動で涙している聴衆を複数見かけた。思い出したのは空中撮影の名作『看見台灣』である。そのときも映画館で泣いている観衆がいた。外国人にとっては理解が難しい反応だった。『看見台灣』も『造山者』もすぐれたドキュメンターリーであり、台湾のみならず国外でも上映される価値のある作品である。しかし、涙を流すことはない。その涙は台湾人だけが流せるものだ。
台湾を守っている「護国神山」あるいは「護国群山」と呼ばれる台湾の半導体企業群は、なぜ、いかにして形成されたのかが本作のテーマである。作品のハイライトはTSMCの成功を中心とする後半よりも、むしろ、台湾の初期半導体産業を支えた人々を取り上げた前半にある。そしてそれは1970年代から1980年代にかけて、半導体に賭けた人々の台湾版「プロジェクトX」であった。
重要なのは、台湾が国連から追い出され、米国からも断交されたいわゆる国家的危機のなかで、まだ海のものとも山のものともつかない半導体産業の育成プロジェクトが始動したことだ。共有されていたのは台湾の将来に対する危機意識である。
台湾は1960年代までは反共の砦であると同時に、大陸反攻を掲げ、国家のリソースを軍事・宣伝に費やしていた。しかし、大陸反攻が台湾の外交的孤立で事実上不可能になるなかで、台湾は国家の消滅の危機に瀕していた。そこで台湾の経済テクノクラートらは、半導体に賭けることにした。その危機感に、在外の台湾人・華人たちのエンジニアも呼応し、台湾に工業研究院が設立され、スピンオフで聯電やTSMCが成立され、それらが台湾を担って行く企業となる。だが、その結果が現れるのは、2010年以降のパソコン、そしてスマホの普及を待たなければならない。1970年代にチップに賭けた結果は30年後にようやくリターンを生み、台湾が半導体の島となった。
半導体を守るためには台湾を守らなければならないという理解が世界に定着し、台湾の安全は保障されるに至り、経済的成果ももたらしたのである。当時の台湾の経済官僚は、台湾を守るという点で、おそらく初めて、台湾の発展や台湾の生存に必死になった結果であり、今日の台湾化、民主化に通じる道が開かれていくのである。英語ののタイトル「チップ・オデッセイ」は適切なタイトルであるが、同時に「タイワン・オデッセイ」の要素も本作は持っている。日本でも必ず上映してほしい映画だ。
エンドロールでインタビューリストが流れた。職業柄、つい人数を数えた。九列に九人ずつ名前が並んでいた。81人に及ぶインタビューを撮り切った蕭菊貞監督をはじめ製作陣の努力に頭が下がります。