2026/08/17
【夏の本棚】
武田徹『神と人と言葉と 評伝・立花隆』中央公論新社
立花隆を大学の授業で扱っていることもあってこの本は刊行すぐに購入したが、2年間ほど積ん読になっていてようやくこの夏に読み終えることができた。立花隆は「知の巨人」などと呼ばれる無類の読書家だったが、その本質についてはけっこうぼんやりとしか理解されていなかった。本書はその立花隆の一生を追いながら、思想的な基盤に焦点を当てた内容で、立花隆に関する伝記的な作品は本人の筆によるものを含めて複数出ているが、その決定版になるだろう。立花隆の思想的中心はウィトゲンシュタインとキリスト教であったというのが本書の結論的なところだ。私も学生時代にニューアカにはまってウィトゲンシュタインを読んでワクワクしていたし、キリスト教は、プロテスタントの教会に通っていたので、もともと神の実在と不在について少しばかり考えていた。だから武田さんの立花隆探求の根本にある問題意識はわりとすんなり理解できたと思う。特に後半の「脳死」や「科学」、「宇宙」に向き合った作品のなかで、立花隆が人間の意識変革や超常的な体験に強い興味を持ったのも、人が経験して語っている事柄は基本的にすべて言語化して整理されるべきだと信じていたからだと思う。立花隆の一生は近代の合理的知性の限界を確かめる旅だったのかもしれない。「ここまではわかった」ことと「ここから先はわからない(あるいは語り得ない」の境界線を探すこと自体を立花隆が面白いと感じていたエピソードがとても腑に落ちた。
