2026/08/18

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【夏の本棚】
近藤明理『台湾からの亡命者 王育徳の矜持 一生を祖国の夜明けに捧ぐ』草思社

台湾語研究者であり、台湾独立運動の創始者の一人である王育徳についてはすでに本人の手による『「昭和」を生きた台湾青年: 日本に亡命した台湾独立運動者の回想 1924-1949 』がある。この本は、その娘の近藤明理さんによる後半生(つまり1949年以降)を、本人が残した資料と新たな調査によって描き出したもので、王育徳と近藤明理さんの共同作品という側面もあるし、亡父の残したミッションを近藤明理さんが果たしたという側面もある。日本における台湾独立運動史の書籍は『昭和を生きた台湾青年』か宗像隆幸さんの『台湾独立運動私記』があったが、本書は台湾研究、とくに日台関係をやる人には必読の一冊ではないかと思う。

この本はもう一つの台湾戦後史だと思いながら読み進めた。
なぜそう考えたかというと、王育徳だけではなく、その周囲にいた人々との交際もリアルな実物大で描いているので、黃昭堂、許世楷、金美齡、辜寬敏、史明、邱永漢そして李登輝らと王育徳らの人間関係が立体的に浮かび上がってくるからだ。
これらの人たちと私はいずれも濃淡の差はあれ交流や面識があったが、一人ひとりがとても個性的でクセもある強烈な人たちである。その彼らの中心に王育徳が静かに存在していたことがよくわかった。戦後日本で彼らが取り組んだことは、民主化後の台湾社会の血肉となり、彼ら自身も台湾政治の一部になった。
王育徳は、天寿を全うできればその研究の発展や運動の成果を目撃できたはずだったが、1985年、台湾の夜明けを待たずに61歳で亡くなる未完の人生を送った。近藤明理さんが最後に書いている「あと一年生きていれば民進党の誕生を見ることができた」「あと二年生きていれば台湾兵の補償請求運動の成功を見ることができた」「さらにもう一年生きていれば李登輝が台湾の総統になることを見ることができた」「さらに1992年まで生きていればブラックリストが廃止され、晴れて祖国台湾に帰ることができた」(原文のままではありません)との下りは、涙なしには読めなかった。

© 2026 Nojima Tsuyoshi