2012/03/04

食とエンタメ

台湾に新聞社の特派員として赴任した2007年、最初に映画館で見た台湾映画。
当時は、いま最も台湾で輝いている主演女優のクイ・ルンメイの名前も知らなくて、この作品がベネチアで批評家賞を取ったこともしらず、何となく道を歩いていたら、このポスターに引かれて見た映画です。

$私は書きたい

偶然というのは不思議なもので、この映画を最初に見ていなかったら、台湾にいた三年あまりの間、とにかく台湾映画をこれほどたくさん見ることはなかったと思う。
なにかこの映画には、違うものがあって、「これから台湾映画を見続けなきゃいけない」と感じさせる何がかあったとしか、今振り返ってもいいようがありません。

強いて言うならば、台湾映画は「悲情城市」に代表されるように、重いテーマを淡々として日常のなかで描いていくタイプのものが多く、正直、エンターテイメントとして楽しむには苦しいものがあって、「悲情城市」など傑作はいくつかあって、世界的な評価は受けていても、観客は離れてしまって台湾映画も一時期、ほとんどマーケットを失ってしまっていました。
「台湾映画は眠くなる」という私の先入観をものの見事にこの映画は裏切ってくれました。

ストーリーはけっこうシンプルで、不倫してアル中になったOLのクイ・ルンメイのもとに、毎日のように録音テープが届きます。台湾のあちこちで、ある音楽の録音師が集めた海の音や町の音なのですが、この録音師は、クイ・ルンメイが住んでいる家に昔住んでいた彼女に振られ、その気持ちを取り戻そうとテープを送り続けていたのです。

クイ・ルンメイは、その音が取られた場所を探す旅に出ます。過去の自分を断ち切るために。一方、録音師の方も、旅を続けていたのですが、その途中で、これも悩みを抱えた精神科医と出会い、彼女のことを吹っ切ることを決め、最後に台湾の東の海岸を訪れ、そこにクイ・ルンメイが・・・。

こうやって書いていると、なかなかストーリーをうまく説明できないのですが、この映画のキーワードは旅と距離です。人は何かがあると、旅に出る。旅に出ることで、本来は出会えないような人との距離も縮まる。そんなメッセージが込められているように思えます。

そして、この映画には、台湾のあちこちの人間、町、風景が描かれているのですが、台湾の映画において、台湾という対象を美しく撮ろうという発想は、実はこのころまであまりありませんでした。

「悲情城市」的な映画世界のなかでは、台湾は矛盾に満ちた土地。欧米のマーケットも、台湾にそういう映画を期待した面がありました。しかし、よく考えると、台湾は本当に美しく、豊かな土地です。人々も開放的で優しく、食べ物は美味しい。そんな台湾の魅力を正面からとらえた点が、私としてはこの映画の最大のポイントであり、台湾映画史における最大の功績だったと思います。

© 2021 Nojima Tsuyoshi