以前この欄で「台湾からジミー・ライ=黎智英が去った日」という一文を書いたが、黎智英が台湾で経営してきたメディアグループ「壱伝媒」(ネクストメディア)の売却最終案がこのほど公表され、正直ちょっと驚いた。

 その買収先の企業に蔡衍明が率いる旺旺が入っていたからだ。これもこの欄で報じてきた件だが、台湾の中国時報グループが、この蔡衍明がオーナーになったことによって、深刻な報道の親中化と私物化が起きている。

 買収案の最終内容は以下の通りだった。

 台湾プラスチック=34%

 中国信託+その他企業連合=34%

 旺旺グループ=32%

旺旺は一見、ほかの2つのグループよりも影響力を持たないように見える。しかし、実際には、旺旺はテレビ事業のほうには参画せず、新聞・雑誌事業のみに経営参加するので、新聞・雑誌事業は旺旺に事実上任される形となっている。

壱伝媒傘下の「りんご日報」や「壱周刊」は、スキャンダル路線で人気を集めたが、一方で人権・リベラル思想を重視する黎智英の考えのもと、中国に批判的な報道姿勢をとってきた。一方、旺旺は中国ビジネスで大もうけし、台湾きっての企業に成長した会社だ。蔡衍明は「台湾首富」(台湾トップのお金持ち)となり、中国政府との関係が深いことでも知られる。

この両紙・誌が、旺旺に買い取られたことの意味は、両紙・誌の本質的な路線の転換が不可避であることを意味しており、旺旺は中国政府に大きな恩を売ることに成功したとみるべきだろう。また、両紙・誌の政権幹部の腐敗・スキャンダル追及に悩まされてきた国民党・馬英九政権にとってもプレゼントになった。

両紙・誌の路線転換後は部数の下落が待っていることは間違いない。しかし、中国ビジネスで巨額の利益を毎年上げている旺旺にとっては、これで中台両政府に大きな貸しを作れるのならそれほど痛くもない「捨て金」と見ることもできる。

リベラル報道人の牙城でもあった中国時報の買収に続き、中国や馬英九政権に鋭い批判を加えていた「壱伝媒」の買収によって、「親中・親国民党」の旺旺主導で台湾メディアの再編が加速していくことをいっそう確信させる事態となった。

*国際情報サイト「フォーサイト」(http://www.fsight.jp/)のコラム「中国の部屋」で掲載した内容です。

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