2016/08/15
【増刷のお知らせ】
拙著『台湾とは何か』がこのほど増刷となりました。御礼を兼ねてご報告いたします。というのも、私のFBの友達の皆さんには、FB上で紹介していただいた方も少なくなく、買ってくださった方、知り合いに紹介して下さった方など、この本の普及で少なからず助けていただきました。
本は売れなきゃ意味がない、とは言いません。売れない本に価値があるケースも山ほどあります。しかし、基本的にコマーシャリズムに立脚するジャーナリズムに身を置く人間として、しかも、新書という「普及」を前提とした形式で本を出した以上、一定の広がりを獲得したい、という思いが強くありました。
雑誌類を中心に書評も広がり、ウエブでの評判も悪くなく、5月10日の発売以来、コンスタントに売れ行きが鈍らず、発売三ヶ月で増刷に至りました。最初の重版というのは、作者にとっても出版社にとっても、それぞれちょっとずつ立場は違いますが、一つの節目というか、目標達成であることは間違いありません。
初版は1万部でした。10万部、20万部売れるような本ではありませんが、この固い内容で、三ヶ月というちょうどいいタイミングで増刷に至ったことは有り難いの一言に尽きます。
2007年に台湾に朝日の特派員で赴任する前、東西線沿いのある大手出版社の新書担当の編集者と会って「在任中に台湾の本を出したい」と言ったところ、「台湾かあ、台湾ものは売れないからなあ。またミサイル危機みたいに中国と戦争寸前になったら別でしょうけど。それより李登輝さんの伝記でも書きませんか」とあしらわれたときのことを思い出します。「中国」「李登輝」「戦争」という飾りをつけないと、台湾だけを取り上げた本は売れないという話だったのですね。
それから10年ぐらい経過してから「台湾」そのものをテーマにした新書を出せたわけですが、この間、台湾に対する日本人の関心は大きく変化して、台湾というテーマの訴求力は格段に上がりました。今回の本が一定の広がりを持った背後には、そうした台湾への日本人の視線の変化があったことは間違いなく、その意味では、私は幸運だったと言えると思います。ほぼ同時期に出版された「蔡英文 新時代の台湾へ」(白水社)という蔡英文の自伝もなかなか売れ行き好調のようです。
本書の内容についてはタイトルにあるように「台湾」そのものをターゲットにしています。米中関係や中国問題のなかの台湾を論じることの重要性は今日でも変わっていませんが、それでも、台湾自身が「台湾は台湾」という路線を歩み始めている以上、我々も独立した研究主体としての台湾という視点から出発し、台湾個別のロジックや現象をまずは学び、そのなかの中台、日台、米中台などの問題設定に広げていくべきだという問題意識を私は持っています。
本書を書き上げた時は「やるだけはやった」感もあったのですが、読み直してみると、粗いところ、議論が甘いところも多く、自己嫌悪に陥ったりもしました。本を出すということは、それなりに厚顔でなければできない作業だと思います。それでも恥をかきながら書いて前に進むのが書き手なのだと自分に言い聞かせています。
増刷という手前味噌な話に引っ掛けていろいろ書きましたが、思いを持って送り出したこの本が広がることと同時に、台湾に対する日本社会の理解や関心が広がれば嬉しいことです。9月から年末ぐらいにかけて、ちょっと意識的に講演を日本で多めに入れています。随時告知を始めていきますが、台湾について考えたい、知りたいという人がいらっしゃったら、お声掛けいただければなるべくどこへでも出ていきますので、引き続きよろしくお願いいたします。