2016/08/18

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鬼月だからというわけではないのだが、台北に向かう中華航空の機内で台湾映画「青田街一号」を観た。2015年に上映されたものだが、なんでも上映時期のタイミングがあまり良くなかったらしく、票房(興行成績)はあまり良くなかったらしい。爛片(駄作)という評価も伝わってきた。

 だからDVDが発売されていたが買うのは控えていた。ところが、観てみると、まず駄作という評価は完全に当てはまらないことが分かった。傑作だと言ってもいい。2時間、飽きずに最後まで見ることができた。

 青田街一号というのは、いかにもありそうな地名であるが、実際は存在しない。これは、精神病院の実験室の名前であった。そこで繰り広げられた人体実験によって生み出された特殊な身体能力の持ち主である殺し屋と、その殺し屋を操っている元精神科医の物語である。精神科医は、町なかで怒りを抱いている人を見つけては殺しを請け負う。普段は親から受け着いたクリーニング屋を経営している。そのクリーニング屋で遺体を処理して秘密を守ってきた。
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 しかし、殺し屋に殺した人々が取り憑き、その除霊を求めて霊媒師の女性に巡り会うところから、事態は思わぬ方向に展開していく。殺し屋に殺されて取り憑いた人々には、この世に対して放棄しがたい思い入れがあり、同時に精神科医に殺しを依頼した人にも、それぞれの事情と思いがあったのである。そのエピソードに深い物語が用意されているので、映画の深みもぐっと掘り下げられている。特に、家庭内暴力を受けている隣居の醜女に対して、オタクのフィギュア狂の男が恋をしてしまい、その醜女を救いたいというのが殺害の依頼だったという下りは、なんとも台湾的な温かさが伴っていてジーンとさせられた。
 殺し屋は張孝全、ジョセフ・チャンが演じ、精神科医は隋棠、ソニア・スイ。二人とも、体当たりの演技で、かなり良かったと思う。ソニア・スイは、もともと大根役者の代表格だったが、ブラック・アンド・ホワイトに出たあたりからかなり演技が磨かれてきた。なにより、萬茜という中国人女優の演技が秀逸だった。
 彼女は台湾映画「軍中楽園」でも妓女を好演して受賞もしているが、そのときのイメージが強いのか、クールな美女という風にしか思っていなかったが、本作では、殺し屋に取り憑いた殺された人々の幽霊を取り払う霊媒師の役柄を演じている。優しさとユーモアをたっぷりあふれた演技は、シリアスで暗さが出そうなシナリオの本作のなかに、温かさと笑いをもたらす役割を果たしている。中国語で霊媒師のことを「仙姑」ということを初めて知った。この仙姑の好演があっての、この映画という感じもした。
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 これだけの俳優をそろえて脚本も演出もいいのに大ヒットにならなかったところに台湾映画の難しさがある。いったんブームに火がつくと留まるところを知らないように盛り上がるのだが、本当に丁寧に作られたいい映画への評価が十分にされないで埋もれてしまうという市場としての未成熟さがあることは残念である。
 映画の最後に、刑務所に入った殺し屋に向かって、生き残って仙姑が会いにくるところがある。そこでこんなセリフを言い残して仙姑は去っていった。
 「你是我命根子」
 「命根子」という言葉は文字通り、元気の源みたいなことなのだが、もっと抽象的に「最愛の人」を称するときに使われることが最近多い。この映画のなかでは、ソニア・スイもジョセフ・チャンに「命根子」と言うシーンがあった。その意味では、この映画は「命根子」たる殺し屋のジョセフ・チャンの奪い合いという一面がある。
 命の危機をくぐり抜けて精神的に分ちがたくつながった2人にとって「命根子」ほどふさわしい言葉はないのだろう。わりとぶつっと切ってしまうことが多い台湾映画のなかでは、例外的に美しいエンディングであった。
★★★★(5つで満点)

© 2021 Nojima Tsuyoshi