2017/10/10

書評

【読書・大鹿靖明「東芝の悲劇」】

 元会社の先輩の大鹿靖明「東芝の悲劇」を読了。まず同業者として学ぶところの多い本だった。大鹿さんは取材記録をものすごく丁寧に整理している。取材記録というのは記者の最大の宝。取材はすべて一期一会の覚悟で、内容はすべて記録しておきたい。だが、これは時間と労力がかなることなので、なかなかやろうとしてもできない。私も手間を惜しまない方のつもりでいるが、大鹿さんはきっと何倍も努力されているとわかる。過去から長く積み重ねた東芝取材の蓄積が生かされている。
 次に勉強になったのは人物の処理。形容でなく、ファクトと証言によって読者に想像させる。これもついつい怠ってしまうことだが、私がある人をみて「かっこいい」と思ったことを「光り輝くようにかっこよかった」と書くことには、何の説得力もない。その「かっこよさ」の背後にあるものを伝えて想像させないといけない。大鹿さんは東芝の「かっこよくない面々」がなぜそこまで「かっこよくない」のかを、人間の過去を丁寧に掘り起こして整理することで、東芝問題の人災的な側面を浮かび上がらせている。反論の余地のないほど東芝の経営陣の人的責任を追い詰める内容で、大鹿さんは怖い人だとも思った(笑)。
 でも、東電も東芝もシャープも朝日新聞も、日本企業でここ最近起きた問題は、結局のところ、企業が人を得なかったゆえに起きたことだというのは本当だと思う。なぜ企業が人を得ないのか。それはさまざまな理由がある。大鹿さんが書いているように東芝は傍流からの抜擢人事で将たる器のない人がトップになった悲劇なのかもしれない。でも、主流の人事でも災害的な事態を招くこともある。それはいずれにせよ企業の体質に病理の原因があるというしかない。
 私はバブル世代でバブル崩壊後に会社に入って企業担当じゃないけれど企業の失敗のニュースばかり見てきた世代で、日本企業の成長神話的な発想がよく理解できないが、「自分たちはこれまでもうまくやってきた。これからも大丈夫だ」とトップや幹部が思い込むところから、悲劇は始まるのだろうとわかってきた。とにかくいい本だし、日本人として読むべき本で、同業者として嫉妬と羨望を抱いてしまう本です。帯の著者紹介「築地の新聞社に勤務」「労組委員長選に立候補し、落選」に苦笑。築地市場の業界新聞と思う人がいたらどうしようと心配になった。

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