2021/05/17

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日本でも報道された台湾のリンゴ日報(アップルデイリー)の休刊。ウェブへの移行ということだが、影響力は大きく落ちるだろう。直前まで存続のための売買交渉をしていたらしいが、結局価格が折り合わず、うまくいかなかった。部数減と広告減の二重苦で刷れば刷るほど赤字になる状況であったので、この判断に至ったのであろう。政治的にも経営的にも逆風にある香港のリンゴ日報を支える、という部分もあったという。

休刊の辞で自ら述べているように、政治色の強い台湾の新聞のなかで、リンゴ日報は「非藍非綠」、つまり明確な民進党支持でも国民党支持でもないという貴重なメディアだった。外国人としても台湾のメディア・リテラシーのイロハとして、グリーン系の自由時報を読み、ブルー系の聯合報・中国時報を読み、最後にリンゴ日報を読むということで台湾での世論の全体像をつかんでいた。真ん中という立場はこの分断世界で存在できないという読み解きは、少々強引かもしれないが、そういう一面もある気がする。

また、リンゴ日報のオピニオン欄「蘋論」はとても充実しており、特派員時代はここで面白い文章を書いている著書によく会いに行く取材のきっかけになっていた。彼らが2000年以降に台湾に進出するまで、台湾にはあまり異なるオピニオンを同じ紙面で競わせる文化はなく、欧米流の香港の新聞スタイルを台湾に持ち込んだ形で、それから各紙ともオピニオンやコラムが充実していったと思う。日本に戻ってから、この蘋論で三年間ほどコラムを書かせてもらったのはいい思い出だ。このコラムも紙面縮小のため昨年終了したとき、これは近い将来厳しくなるかもと予感していたのでこの休刊には驚きはないが、台湾メディアの一時代を画した新聞の退場には、やはり残念な思いである。

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