2026/08/31

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【夏の本棚】
五十嵐隆幸『台湾有事』中公新書

大変勉強になった一冊で、特に第三章から第五章は一行ずつしっかり読まないといけないと思い、付箋をいっぱい貼った。基本的に著者は専門家として「台湾有事は起きない」とはまったく言っていない。一方、「台湾有事が起きそうだ」と軽々に語る人たちを厳しく戒める。とくに2027年説に乗っかって有事説が煽られてしまった傾向に強い懸念を持っていることが全編から伝わってくる。おそらく今後の日本の論壇で一定の鎮静効果を発揮するに違いない。2027年有事説は台湾の内政と中台関係、中国の内政・外交環境をほぼ無視した議論なので、私も「2028年の総統選挙が終わるまではあり得ない」と主張しているが、「絶対に起きない」とは思っていないし、むしろ「相対的に起きる確率は着実に過去よりも高まっている」ことも確かだろう。本書のなかで著者は過去「中国が侵攻に踏み切らなかった理由」は「意思の欠如」ではなく「条件が整わなかった」として、米軍の介入と解放軍の作戦能力の実行性、仮に上陸してもそれが維持できるかどうかの政治・社会コストという壁があるためであると論じている。このあたりの分析は非常に精緻に考え抜かれており、新書なので分かりやすく、同時に専門性を失っていない内容になっている。あとは指導者の決断に合理性がどこまで担保されるかだが、近年の国際政治をみていると「個人」が突出した結果、ロジカルな分析だけではカバーできないので、そこは留保が必要だろう。軍人は論理で動くが、政治家は感情で動く(ことがある)。だからこそ、悪魔の囁きがあったとしても台湾への武力行使における著者のいうコストが非常に高いから「やっぱりやめたほうがいいかな・・」とあの人に思わせるよう、台湾も国際社会も考えて行動していくしかない。

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